ニュースレター

2008年12月23日

 

細やかな管理基準とトレーサビリティによる認証プログラムで、業界をサステナブルに変えていく - Good Inside

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.72 (2008年8月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第11回
http://www.charity-platform.com/

コーヒー豆は、一次産品では石油に次いで世界第2位の国際取引高を誇るといわれています。その価格は市場動向で大きく上下する作物でもあります。また、コーヒー豆の生産国には発展途上国が多く、労働環境が整備されていないところも少なくありません。また流通面でも不透明な部分が多いという現実があります。

1997年、そうした現状に危機感を抱いたオランダの焙煎業者とグアテマラの生産者が、コーヒー業界からから独立した組織を設立しました。マヤ語で「良いコーヒー」を意味する「Utz Kapeh(ウツ・カフェ)」というその組織は、農学者や業界の人々の協力を得ながら、5年の歳月をかけて、農園の管理基準やトレーサビリティ・システムを構築しました。

こうして、コーヒー業界全体をサステナブルな方向に導く第一歩が踏み出されたのです。2002年、オランダに本部を設立。最初の認定農園で生産されたコーヒーを持って市場参入しました。

その後、コーヒーに関する認証プログラムとして世界各国で展開するまでに成長した「Utz Kapeh(ウツ・カフェ)」は、2007年3月に組織名を「Good Inside」と改め、ロゴも刷新。現在は、コーヒーはもちろん、お茶やカカオ豆、パーム油など、より多くの製品に対してもGood Inside認証プログラムの果たす役割を広げていこうと動き始めています。

設立から5年たった今、ブラジル、コロンビアなど、世界8カ国にわたる生産国オフィスが、430の認定生産者団体をカバーしています。日本をはじめスイス、アメリカにサービスオフィスを置き、400社以上のバイヤーと協力し合いながら26カ国の消費国で展開する、世界的に信頼されるコーヒーの認証プログラムとなったのです。そのGood Insideの取り組みについて、日本オフィスのゼネラルマネージャー、オルティスリベラ美由紀さんに伺いました。

Good Insideの3つのキーワード

日本では昨今、産地偽装などの企業の不祥事が引き金となって食品への信頼性が揺らいだことで、食の安全への関心が高まっています。そうした中、認証プログラムは安全な食品を求める消費者にとっての目安となります。また、そうした消費者のニーズに応える製品を供給するために、企業や業界は認証プログラムを積極的に取り入れ、生産者はプログラムに則って責任ある生産を心掛け、実現していくことができます。

Good Insideには、「P」で始まる3つのキーワードがあります。「People」「Planet」「Profit」です。

「People」は、コーヒーの生産者をはじめ流通業者そして消費者に至る、あらゆる人々の生活の向上を目指すことを示しています。また、農業生産は少なからず自然環境に手を加えなければ成り立たないことから、そこで発生する環境破壊を最小限にし、自然と共存していこうという思いが「Planet」に込められています。

「Profit」には、生産者にとっては「高く買ってもらえる」ことだけでなく、Good Inside認証プログラムに参加することで、情報を得たり訓練を受けてプロフェッショナルな生産者になることから、無駄なコストや労力の削減に繋がるという意味もあります。また、生産者と消費者の間に立つ商社などの企業にとっては、より安全な製品や生産から流通過程のはっきりした製品を求める市場ニーズの高まりに応えているというProfitがあり、またそれによって社会的責任を果たしている企業であるとアピールできるProfitもあります。

「Good Insideとしては、食の安全性が求められるこの時代に、どのように生産され、流通し、消費者の手に届いているか、それらすべてを明示できることがもたらすProfitを、常に目標にしています」(オルティスリベラさん)

認証プログラムを支える、トレーサビリティ

コーヒーの認証プログラムに取り組んでいるのは、Good Insideだけではありません。国際フェアトレードラベル機構、レインフォレスト・アライアンスなどの団体もコーヒーの認証プログラムを持っています。Good Insideの特徴は、コーヒー業界全体の底上げを目的とし、コーヒーの品種やグレードにかかわらず認証を行っていることにあります。

生産国を幅広くカバーし、プレミアのつくコーヒー豆はもちろん、低価格の豆にも管理基準をクリアしたものには認証を与えています。それによって大規模な焙煎業者も、認証コーヒーを使ってさまざまな製品をつくることが可能になります。「コーヒーは嗜好品。ジャマイカ産のコーヒーが好きな人もいれば、そうではない人もたくさんいます。生産国もグレードも幅を広くすることが、認証プログラムを長続きさせ、さらに発展させていく秘訣だと考えています」(オルティスリベラさん)

こうしたGood Insideの認証プログラムを支えるしっかりした土台となっているのが、独自の「トレーサビリティ・システム」です。「認証プログラムを確実なものとして実現するためには、生産者がトレーサビリティを理解することが必須です。そのために最初にしっかりと訓練を受けていただき、管理基準に基づいて実施し、記録を取っていただきます。必ず年に一度は第三者機関による監査を実施しており、必要な場合には抜き打ち検査も行います」(オルティスリベラさん)

日本で問題になっている残留農薬についても、「いつ、どういう利用目的で、どの薬品を使用したか」「責任者は誰で、残った農薬はどのように保管されているか」までに残し、農薬使用履歴として管理することを徹底し、コーヒー豆を購入した顧客の求めに応じていつでも提出できるようにしています。特に、農薬は消費者の健康だけでなく、実際に農薬を使って作業する生産者の健康にも大きな影響を与えるものですから、防護服を着けて畑に入ったか、散布後何日間畑に入らなかったか、までも記録しているといいます。

「そうした記録があるからこそ、数値による裏付けのとれた年次レポートを毎年出し、加えて、半年に一度という高い頻度で流通関係者向けに需要・供給のレポートを発行することができています」とオルティスリベラさんは言います。

認証プログラムから生まれる新しい社会、新しい関係

農園の管理基準についても、変わりゆく世界の状況、求められるものの変化に応じて、2年に一度見直しが行われています。2008年は基準の見直しの年であり、今年は環境面でのチェック項目が増える予定です。

認証プログラムに参加する生産者にとっては、管理基準に基づいた事細かなチェックや、それを記録に残していくという作業に、最初は多々煩わしさを感じるところもあるようです。生産国の担当者は、まず地域の生産者に集まってもらい、認証プログラムについて紹介し、利点を説明して、押しつけでなく、共感を得てもらうところから始めるそうです。

「管理基準に基づいて取り組んでいくことで、何が変わるか。それは、雇用主と労働者の人間関係です。コーヒーをどれだけ作っても、どれだけ働いても、誰もが生活がままならず、コーヒー生産の仕事を次代に受け継がせたいという気持ちにならない。それが質の低下や仕事全体のメンテナンス不足に繋がり、さらなる悪循環を生んでいました。それに対し、この認証プログラムの創設者は、大切にすべきは人ととらえ、労働環境の整備はもちろん、子どもたちの教育の確保といったといったことまで認証基準に盛り込みました。各国のコーヒー文化を尊重し、すべての人、すべての文化を尊重する。それが『私達は大切にされている』という実感となり、生産者のモチベーションも上がり、生産にも反映されて、よい循環が生まれるのです」(オルティスリベラさん)

現在は、ロゴマークのついた商品を市場に出してもらうため、バイヤーの後押しをしつつ、消費者に関心を持ってもらう取り組みを進めています。大学でサステナビリティについての講義を行い、その中で認証プログラムを紹介したり、年内には消費者向けのシンポジウムも開催予定です。

オルティスリベラさんは言います。「食品の認証プログラムは、本当は必要ないほうが一番いいと思います。しかし、コーヒーの場合、生産者の生活が悲惨な状況にある場合が多かったこと、流通が複雑で不透明なところが多かったこと、生産者に消費国の求める品質や安全性についての情報が伝わっていなかったことがあり、必要性からつくられました。いつか、こうしたことが当たり前に浸透している社会が来るように、今は、認証プログラムを多くの生産者、業界関係者に伝えていくことが使命だと思っています」

(スタッフライター 青豆礼子)

English  

 


 

このページの先頭へ