ニュースレター

2008年05月01日

 

日本を引っ張る東京都の温暖化への取り組み

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JFS ニュースレター No.68 (2008年4月号)
シリーズ:地方自治体の取り組み 第19回
http://www.metro.tokyo.jp/index.htm

今月は、「日本をひっぱるのは自治体だ!」と、先進的・包括的な取り組みを進めている東京都の温暖化対策を紹介しましょう。日本政府の温暖化防止の目標は「2012年度末までに1990年度比温室効果ガス排出量6%削減」ですが、都は「2020年までに2000年比25%削減」という大きな目標を掲げて取り組んでいるのです。

都の温暖化への取り組みが本格化したきっかけは、2006年9月、都議会での施政方針演説でした。石原慎太郎都知事が「今世紀半ばまでに全世界の温暖化ガスを半減させるため、都が先導的な役割を果たす」と宣言したのです。

その3カ月後には「10年後の東京」を策定。前述の「2000年比25%削減」という大きな目標を掲げ、「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」を社会の仕組みを変えながら進めていくという東京都の方針が打ち出されました。
http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/10years_after/
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KEIKAKU/2007/06/70h61200.htm

それを受け、翌1月「環境都市づくり戦略合同会議」が設置されました。社会の仕組みを変えるなら、社会を形づくっているすべての部局が取り組むべきという考えで、副知事がトップを務める都庁横断的な組織です。

続いて3月には、2007年度予算で500億円の地球温暖化対策推進基金を設置。これによって、権限と予算をしっかり持ったプロジェクトであることがはっきりしました。9月の知事の発言から半年あまりで、都庁は大きく動いたのです。石原知事が就任以来モットーにしている「実効性とスピード」を、まさに地でいく展開です。

実効性のある動きをつくっていくためには、大きな流れを押さえつつ、個別の政策を進めていく必要があります。2007年2月に、第二世代バイオディーゼル燃料実用化プロジェクトが、3月には、太陽光・熱利用100万キロワットを目指す太陽エネルギー利用拡大会議が設置され、それぞれ取り組みを始めました。
http://www.japanfs.org/db/2035-j

電気のグリーン購入とは、大需要家としての東京都の購買力を活かしてエネルギーの仕組みを変えていこう、自分たちの求めるエネルギーを選べるようにしたいという考え方です。2007年3月にセミナーを開催したところ、全国の自治体及び企業から200人以上が参加し、「購買力を束ねれば仕組みを変えられる」という認識から、6月にグリーンエネルギー購入フォーラムが立ちあがりました。現在は80団体が参加しています。
http://www.japanfs.org/db/1809-j

6月には、「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」の基本方針として「東京都気候変動対策方針」が出されました。その基本的な考え方は(1)日本の環境技術を、CO2削減に向け最大限発揮する仕組みをつくる、(2)大企業、中小企業、家庭のそれぞれが、役割と責任に応じてCO2を削減する仕組みをつくる、(3)当初の3-4年を「低CO2型社会への転換始動期」と位置づけ、戦略的・集中的に対策を実行、(4)民間資金、地球温暖化対策推進基金、税制等を活用して必要な投資は大胆に実行、です。

なかでも急いで進めているのは建築関係です。今建築される建物のほとんどは、2050年の段階でまだ建っています。つまり2050年に必要なスペックで建てなければなりません。

また、排出量取引の導入を考えています。日本では、経済界からの「国際競争力を失う」という反対が強く、国としての排出量取引はまだ実現していません。「それでも東京都は2010年から排出量取引をやりますよ。EUと米国の主要州などで構成する国際炭素取引協定(ICAP)にも入るつもりです。それで国を引っ張り込むことができます」と石原都知事は述べています。

東京都の考える排出量取引のしくみは、大規模事業者にCO2の削減義務を課し、省エネやCO2削減の余地がたくさんある中小企業との排出量取引を進めようとするものです。それによって、コスト効果の高い削減策を進めると同時に、中小企業の活性化や環境活動を推進することもできます。

冒頭に述べたように、都は「2020年までに2000年比25%削減」という大きな目標を掲げて取り組んでいます。日本では、このような大きな目標に対しては、「できるかできないか」という議論に終始することが多いのですが、都庁では石原都知事が「結果が出せない人には去ってもらう」というスタンスを明確にしてきたため、トップが決めた目標を「できるかできないか」を議論するのではなく、「どうやってやるか」を考えるのが職員の役割だという風土ができたと言います。

知事は「温暖化を止める。そのために必要なことはすべてやる」と宣言し、具体的な進め方は職員に任せています。このようなバックキャスティング型のやり方では、最初からすべての道のりがわかっているわけではありません。最終目標地に向かう次の道を探しながら進めていきます。これまでの都庁の物事の進め方とはかなり違ったそうですが、都知事の「温暖化を止める」というシンプルなビジョンと強力なリーダーシップで、都の環境政策はぐんぐん進んでいます。

都は、大きな目標に向かって、いくつもの政策を束にして進めていく統合型のアプローチをとっています。都庁の各部局や他の自治体、産業界、市民などが連携をしながらそれぞれの役割を進めていき、これまで3回開催したステークホルダー会議などで、施策の決定過程はすべてオープンにしています。

都の取り組みのもう一つの特徴は、あくまでも都民の視線での政策を考えることです。CO2排出量の削減には、エネルギー消費量を減らし、再生可能エネルギーに転換していく必要があります。現在の国のエネルギー政策ならば、「家庭部門のエネルギー消費は、電気47%、都市ガス47%、灯油6%だ、それぞれどうしたらよいか」とエネルギー種別で考えます。上流からの発想といえるでしょう。

都では、都民は何のためにエネルギーを使っているか? を見ます。人々がエネルギーを使うのは、豊かに暮らすためです。人が生活するのに必要なサービスは何か、そのためにどのようなエネルギーが必要なのか、そのエネルギーはどこから持ってくるか、と「需要プル型」で考えていくのです。

すると「照明・家電等37%、給湯43%、暖房・冷房20%」にエネルギーを使っていることがわかります。照明・家電には電気が必要ですから、省エネ化で減らしたうえで、太陽光発電を導入すれば、既存の電力会社からの買電量は大きく減らせるでしょう。

一方、給湯や冷暖房は低温熱の利用でまかなえます。パッシブなエネルギー利用と太陽熱給湯機などのアクティブな自然エネルギーの利用を組み合わせれば、ガスの購入量は大きく減らせるのです。

また、都内では大規模に再生可能エネルギーをつくることはできないので、再生可能エネルギーをつくってもらえる地域の経済活性化と雇用の創出を東京都がお手伝いしようという計画も考えています。

東京都は2016年のオリンピックを招致しています。「それまでに低炭素型で豊かだという東京モデルをつくり、世界の都市に発信するんだ」という意気込みがどんどん形と実績になっていくよう、エールを送って見守りたいと思っています。

(枝廣淳子)

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