ニュースレター

2008年03月01日

 

不動産を通じサステナビリティを広める - ジョーンズ ラング ラサール株式会社

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JFS ニュースレター No.66 (2008年2月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第69回
http://www.joneslanglasalle.co.jp/japan/ja-jp/Pages/Home.aspx

持続可能な社会へ--多くの人が望むのに、なかなか実現が難しいこの課題に対し、またひとつ新たな挑戦が始まろうとしています。企業不動産の分野です。これまでは採算性を重視したビジネス戦略が最優先されてきたこの業界でも、利益追求だけではなく社会的な責任を問われることが多くなっています。企業不動産の総合サービスおよび投資マネジメント会社であるジョーンズ ラング ラサールは、サステナビリティというコンセプトを打ち出し業界をリードしようとしています。

ジョーンズ ラング ラサールは、アメリカのシカゴに本社を置き、約22,000名のスタッフを抱え60カ国以上でビジネスを展開、2007年の売上は27億ドル(約2,340億円)を超えるグローバル企業です。そのネットワークは、南北アメリカ、ヨーロッパ・中東、アジア太平洋の各地域につくられています。直接不動産へ投資をするのではなく、不動産取得にかかわる支援やマネジメント、コンサルティングなど多岐にわたるサービスを総合的に行っています。2007年11月には、ジョーンズ ラング ラサール 香港が施設マネジメントを請け負い、クライアントであるYKKビルが廃棄物や省エネ努力を進めた結果、香港エコ・ビジネスアワードを受賞しました。

2007年11月には、英国の不動産業界サステナビリティ・サービス最大手のアップストリーム社を買収、エネルギー&サステナビリティ・サービス(ESS)事業はさらに専門性を増し、指標作成、リサーチと提言など戦略的なサステナビリティ・コンサルタント・サービスを提供できるようになりました。「サステナビリティを意識した取り組みにおいて、頭ひとつ抜きん出たという自負があります」とマーケティング・シニアマネージャーの白川弘美さんは説明します。

不動産にも求められるサステナビリティ

同社が2007年に不動産業界団体のコアネット・グローバルと共に、シンガポール、デンバー、メルボルン、ロンドンに事業所を持つ400企業を対象に行ったサステナビリティについての意識調査によると、約80%が今後2年間で企業不動産にとってサスティビリティが重要視されると回答しました。そしてなんと52%のテナントが、持続可能な不動産のために1-5%上乗せした賃料を支払ってもよいという結果が出ました。オフィスビルにも、持続可能性を求める流れが世界的に起こっています。

ここで、日本の状況を見てみましょう。日本での温室効果ガスの排出量を見ると、産業界は自主行動計画を立てて排出量削減に向けた努力をしていますが、その一方で排出量が増加しているのが業務・家庭部門です。2006年度の二酸化炭素排出量は、業務その他部門(商業・サービス・事務所等)で2.3億トンと、1990年比で41.7%の増加となっています。日本は、ビル全体のエネルギー収支や省エネコストを把握するエネルギーマネジメントや、ノウハウがいき渡っているとは言いがたい状況です。日本政府は省エネ建築への助成や法規制の強化を図り、また、東京都では独自の「東京都気候変動対策方針」で、2008年度に大規模事業所へ総量削減義務を導入する方針です。

「省エネ機器の導入などオフィス内での取り組みは進んでいますが、不動産に対しては、投資の回収や、より安く借りるというコスト意識の方が高く、サステナビリティを意識している人は少ないようです。サステナブルな不動産に投資する価値があるとは、まだ認められていないようです」と、白川さんは打ち明けます。

サステナビリティの知識と情報を広める

そういう厳しい状況の中で、ジョーンズ ラング ラサール ジャパンはサステナブルな不動産を広めるために、どのような戦略を立てたのでしょうか。

まずサステナビリティの意識を持った社員を育てることが必要です。そこで社内イントラネットで、「ACT(A Cleaner Tomorrow)」というウェブを立ち上げ、サステナビリティへつながる行動や情報提供を行っています。ジョーンズ ラング ラサールのアジア・パシフィックの拠点であるシンガポールで制作されたこのサイトを、今後は日本版として改良し、さらに効果を高める予定です。

クライアントへのツールとしては、海外のリサーチ部門が出しているサステナビリティに関するレポート「アドバンス」シリーズがあります。この白書は不定期ですが少なくとも四半期に一度は発行され、不動産のサステナビリティに関する世界的な状況を分析・報告するものです。まだ日本独自のサステナビリティ専任のスタッフをそろえる土壌が育っていない今は、これらを日本語に訳し、営業ツールの一つとすることを考えています。

「まだ日本では、自分たちのビルが地域にどういう影響を及ぼすかまでは考えが及んでいないのではないでしょうか。そういう意味でも、これらのツールが役に立ってくれると思います」(白川さん)。

あらゆる面に秘められるサステナビリティへの可能性

では、日本でどんなサステナブルなサービスを提供できるのでしょうか。

2006年には、総合家電メーカーの三洋電機と、新会社「ジョーンズ ラング ラサール・ファシリティ」を設立。三洋電機の環境マネジメントシステムを取り入れた施設管理を提供しています。

サステナビリティはまだ根付いていないと感じられる不動産業界でも、コンセプトを説明する際に壁は感じないと白川さんは言います。「『サステナビリティ』という言葉には慣れていないお客さまでも、それが目指しているものをご説明すれば分かっていただけます。効率優先よりも『もったいない』という概念が、やはり心の底にあるのではないでしょうか」。

同社は大きく4つの事業部に別れ、その下に7つの部門があります。サステナビリティに関するサービスが最初に成り立つと思われるのは、コーポレートソリューション事業部です。その中でも施設の維持管理を行う「ファシリティマネジメント」部門では、具体的にサステナビリティにつながる施設の提案ができます。建築・開発コンサルティングを行う「プロジェクトマネジメント」部門は、入札を細かくチェックし、クライアントに有利な条件の業者を選定するなど、建設プロジェクト全体の管理を任されるため、サステナブルな視点を入れられます。

ホテルのアドバイザリーを行うホテルズ事業部「ジョーンズ ラング ラサールホテルズ」部門では、ホテル不動産を精査し売却や購入のアドバイスを行います。ここでもサステナブルな評価基準がこれから重要になっていくでしょう。白川さんは「弊社はモノを売るのではなくサービスを売るビジネスです。サステナビリティを根付かせるために、どう切り込んでいくかをつねに考えています。どの部門においても、サステナビリティはかかわってくると思います」と期待をかけます。

日本企業が海外へ広げる不動産のサステナビリティ

ジョーンズ ラング ラサール ジャパンは1985年に設立されました。当初は2部門でスタッフも数名でしたが、現在は約430名と急激に成長しています。その背景には、グローバルな不動産サービス企業として、クライアントである多国籍企業から他国で行っているものと同様のサービスを求められるという事情があります。その求めに応じて部門を拡大し、不動産の総合的なサービスを提供できることを強みとして、日本にビジネス拠点を持つ、もしくは進出を計画する海外企業を惹きつけてきました。今後は逆に、海外へ進出している日本企業も開拓する予定です。その際、サステナブルな視点を持っていることは大きな優位性になると白川さんは言います。

「製造業ではサプライチェーンまで環境配慮を求める企業も出てきていますが、まだ数多くの不動産は手つかずです。だからこそビジネスチャンスです。あらゆる企業がサステナビリティに軸足を置き始めたときに、弊社は既にそのようなサービスは何でもそろっているという体制にもっていきたいと思っています」。

そのためにも、まずスタッフ自らがサステナビリティについて理解し、サステナブルな会社になること。そして、クライアントへ説得力をもって提案することで、サステナブルな企業不動産を増やすことができます。温室効果ガス排出量の削減を含め、サステナビリティを目指す世界的な課題解決のプレイヤーとして不動産業の重みが増している今、ジョーンズ ラング ラサールの取り組みは、日本企業の姿勢を変える可能性を秘めています。


(スタッフライター 岸上祐子)

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