ニュースレター

2008年03月01日

 

日本は世界有数の資源国? 都市鉱山を活かそう

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JFS ニュースレター No.66 (2008年2月号)

日本は「資源のない国」で、鉱物資源もエネルギー資源も、そのほとんどを輸入に頼っています。これまで海外から必要な資源を必要な量だけ輸入できていたため、日本の産業は成り立ってきたといえます。しかし最近、資源をめぐる世界の状況が変わってきました。

一つは、最大の資源輸出国である中国が、自国の経済発展のもたらす国内需要の高まりを背景に、資源の輸出に制限をかける動きが出てきたことです。また、他のBRICsと呼ばれる新興経済国(ブラジル、ロシア、インド、中国)も、同様に、経済発展に伴って自国内での資源需要が増大しており、そのため、あらゆる資源の価格が高騰しているのです。

そんな中、「都市鉱山」への関心と期待が高まっています。都市鉱山とは、都市にある鉱山という意味ですが、いわゆる山を掘るということではありません。社会の中にすでにストックとして蓄積されている資源のことです。たとえば、鉄橋は鉄のストックの一つであると考えられます。携帯電話にはさまざまな希少金属が使われていますが、これも資源のストックの一つです。

これまでも、工場で出る端材や、使用済みになった製品をスクラップとして回収し、すでにリサイクルしている金属資源もあります。たとえば、ジュースやビールなどの飲料用のアルミ缶は、平成18年度には183.6億缶が使われました。重量でいうと298,641トンになります。消費重量のうち、再生利用された重量の割合は90.9%でした。再生利用されたうち、缶の原料として使われた割合は62.1%に達しています。

つまり、使用済みのアルミ缶を何度もアルミ缶として再生利用することで、新しいアルミの使用量を減らし、飲料の容器を提供することができているのです。ここで、市中にあるアルミ缶(消費前のものも、消費中のものも、消費後のものも)を「都市にあるアルミ鉱山」と考えることができます。このように、鉄、銅、アルミ、鉛などは、そのスクラップが重要な原材料供給源となっています。

近年は特に、携帯電話やテレビその他の製品などでイノベーションを支える高機能物質として機能する資源需要が高まっています。レアメタルやレアアースなど多様な機能を発揮する金属元素ですが、地球にある利用可能な資源は有限であることから、世界的に消費量が増えるにつれ、枯渇や価格高騰といった資源リスクが著しく増大しています。

この資源リスクを軽減させる一つの可能性が、「都市鉱山」なのです。つまり、すでに市中にある希少資源をリサイクルして再生利用するということです。ところがこれまで、日本国内にどのくらいの希少資源のストックがあるのか、つまり、どのくらいの都市鉱山があるのかはわかっていませんでした。

そこで、独立行政法人物質・材料研究機構の元素戦略クラスター長の原田幸明材料ラボ長が、国内に蓄積されリサイクルの対象となる金属の量を算定し、その結果を平成20年1月に発表しました。今回対象としたのは、金、銀、銅、鉄、スズ、亜鉛、鉛、アルミ、ニッケル、アンチモン、コバルト、インジウム、リチウム、モリブデン、白金、レアアース、タンタル、タングステン、バナジウムで、それぞれの蓄積量としての都市鉱山の規模を推定しました。

計算には、海外との輸出入のデータである貿易統計を用いますが、素材の場合は、部品や製品として輸出入されるケースも多いため、産業連関表を用いて、部品や製品を通じて輸出される素材の割合を推定し、その割合を工業統計から得られる部品などへの部材需要に掛け合わせることで、製品としての海外流出量を差し引いて計算しています。日本ではこれまで、鉄の蓄積量については、鉄源協会が2003年にマテリアルフローを仔細に追って算定したことがありますが、今回の鉄の産業連関表を用いた方法による推定は、そのときの算定量とほぼ一致していることから、この方法でも十分に推算できると考えられます。

その結果、日本の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵する規模になっていることがわかりました。計算によると、日本に蓄積されている金は、約6,800トン。これは、世界の現有埋蔵量42,000トンの約16%にあたります。銀は、60,000トンで22%を占めます。これらは、電子部品などに多用され、今後世界的な需要増と供給リスクが予想される金属です。

また、透明電極としてディスプレイや太陽光発電に用いられるインジウムは61%。他にも電子部品などに用いられるスズ11%、タンタル10%と、世界埋蔵量の一割を超える金属が多数あることがわかりました。

日本の都市鉱山の規模を理解するために、日本の都市鉱山だけで現在の世界需要をまかなったら何年持つかという計算をしてみたところ、多くの金属については、世界の2-3年相当の消費量に匹敵する蓄積が日本の都市鉱山にあることがわかりました。特に、電池材料として期待されているリチウム、触媒や燃料電池電極として不可欠とされる白金の蓄積量は、世界需要を6-8年満たせるほど大きいのです。

天然資源国の資源埋蔵量と日本の都市鉱山を比較したところ、金、銀、鉛、インジウムは、日本が世界最大の資源国となり、銅は世界第2位、白金、タンタルは第3位という資源国となります。「資源のない国」といわれ、国民もそう信じていた日本が、実は有数の資源国だということがわかったのです。

これまで、このような国内の都市鉱山の重要性が十分に認識されていなかったため、一部の金属資源をのぞき、国内での回収・リサイクルの体制も整っていません。鉱山があっても、開発されていない状況なのです。また、使用済み金属スクラップとして安価に海外に流出している場合も多いといわれています。今後、都市鉱山資源をより積極的に有効活用していくことが、日本にとっても世界にとっても重要です。

そのためには、使用済み製品の回収のしくみと、リサイクル設備が必要です。後者については、日本の非鉄金属業界では、製錬で培った分離・精製技術を応用し、電子機器類だけではなく、自動車などの廃棄物からも非鉄金属を回収しており、ある程度整備されていると考えられます。本物の鉱山が、都市鉱山に変わった例もあります。約130年の採掘の歴史に幕を下ろし、閉山した秋田県小坂町の「小坂製錬(旧小坂鉱山)」は、鉱山時代の巨大な製錬施設を利用して、いまは電子基板からの金属回収作業を行っています。

このようなリサイクルによって携帯電話1トン(携帯電話約1万台分)から回収できる金は、約280グラムといわれています。金山の金鉱石からの金含有量は1トンあたり5グラムといわれますから、都市鉱山がいかに豊かな資源であるかがわかります。金だけではありません。携帯電話1台には、1台100グラムとして、金0.028グラムのほか、銀0.189グラム、銅13.7グラム、パラジウム0.014グラムが入っているといわれます。

このような都市鉱山を活用していくためには、使用済み製品の回収率を向上することが必須です。携帯電話は日本では平均18か月で買い替えられるといわれていますが、アドレス帳やカメラとしての機能を使いたい、個人情報漏えいが不安であるなどの理由で、回収率は低下しつつあります。また、回収した製品から資源を取り出してリサイクルしやすいよう、メーカーが最初から解体を意識した設計をするなどの取り組みも必要でしょう。

枯渇しつつある世界のさまざまな資源に対する負荷を軽減するためにも、自国の産業にとっての資源枯渇や価格高騰といったリスクを低減するためにも、国内にある豊かな都市資源をいかに上手に開発し、新しい資源の投入を最低限に抑えつつ、資源を循環し続けるしくみをつくるか。特に回収のしくみをいかにつくっていくか----日本にとっても、世界にとっても、重要な取り組みはこれから始まることになります。今後もその進捗について見守り、お伝えしていきたいと思います。


(枝廣淳子)

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