2007年09月01日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.60 (2007年8月号)
ポール・ホーケン、エイモリー・ロビンス、ハンター・ロビンス著『自然資本の経済』で謳われているナチュラル・キャピタリズムの4原則の1つに、「サービスを通じて価値を消費する経済へ」があります。JFSのニュースレターでも、2003年6月号、2006年4月号で「モノからサービス・機能へ」の転換に取り組んでいる日本企業の紹介をしてきました。
2007年3月に、経済産業省の環境調和産業推進室が「グリーン・サービサイジング・ビジネス --環境にやさしい『機能提供型のビジネス』が開く新たな社会--」という報告書を出しました。経済産業省では、平成17年度から調査研究やモデル事業を実施しており、その事業成果、現状、および課題に関する情報をまとめたものです。今回は、この報告書から、日本で広がりつつあるグリーン・サービサイジング・ビジネスについて紹介をしましょう。
グリーン・サービサイジングとは何でしょうか? 従来は製品として販売していたものをサービス化して提供することを、「サービサイジング」といいます。「モノ」の持つ機能に着目し、その機能の部分をサービスとして提供することです。欧州では、「PSS」(Product Service Systems)という用語を使います。このサービサイジングのうち、製品の生産・流通・消費に要する資源やエネルギーを削減したり、使用済み製品の発生抑制をするなど、環境面で優れたパフォーマンスを示すものを「グリーン・サービサイジング」と呼んでいます。
グリーン・サービサイジングは新しい概念であるため、さまざまな定義や分類が提案されています。今後、新たなビジネスの誕生によって、その範囲も拡張していく可能性もあります。ここでは5つのカテゴリーに分けて紹介しましょう。最初の3つは、マテリアルサービス(モノが主)のもの、残りの2つはノンマテリアルサービス(サービスが主)のものです。
(1)サービス提供者によるモノの所有、管理
これは、契約形態を変更することによって、サービスを提供する事業者が製品をライフサイクルで管理するというものです。具体的には、「製品のレンタル・リース」「コピー機や洗濯機のPay per Use」「廃棄物処理やリサイクルの代行」などの事業があります。
(2)利用者のモノの管理高度化・有効利用
利用者がモノの維持管理をしますが、その管理の高度化や更新のデザインや技術によって、製品の長寿命化を図るとともに、サービス提供を維持、拡大するものです。具体的には、「修理」「リフォーム」「アップグレード」「点検・メンテナンス」などのサービス、「中古の製品・部品の買い取り・販売」などの事業があります。
(3)モノの共有化
モノを共有化・共同利用することで、社会に存在する製品の量が全体として減少し、資源消費量や環境負荷を削減するものです。具体的には、「カーシェアリング」「農機具の共同利用」などの取り組みがあります。
(4)サービスによるモノの代替化
情報、知識、労働により、資源をサービスに代替させることによって、資源消費に伴う環境負荷を削減します。具体的には、「音楽配信」「デジタル画像の管理」などのサービスがあります。
(5)サービスの高度化、高付加価値化
サービスの効率向上、さらなる付加価値の向上によって、サービスに付随する環境負荷を削減します。「廃棄物処理コーディネート」「ESCO事業」などの事業があります。
グリーン・サービサイジング・ビジネスでは、従来型ビジネスモデルと、新たなビジネスモデルとの差を明確にしつつ、(1)利用者の価値、(2)提供者側の価値、(3)環境面での価値の3つの観点で利益があることが重要です。
利用者の価値としては、省労力化や便利さ、包括的なサービスなどの利便性、費用削減などの経済性、適切な保証による安心感や信頼性などの価値があります。提供者側の価値としては、市場としての将来性、事業の収益性などがあるでしょう。環境面での価値としては、省エネ効果やCO2排出量削減の効果、資源節約効果、有害物質の適正管理によるリスク削減効果などがあります。
日本でもすでに多くのグリーン・サービサイジングの事例があり、毎年増え続けています。報告書には70以上の事例が挙げられていますが、その中からいくつかを紹介しましょう。
東京都のスターウェイ株式会社は、リユース、リサイクル可能な梱包箱を通い箱として使用し、運送、梱包作業、管理、環境データ提供を総合的に提供するサービス、環境デリバリーパックというサービスを提供しています。
http://www.japanfs.org/db/1722-j
従来型ビジネスでは、輸送会社が輸送業務を行い、梱包作業・データ管理は利用者自身が行うことが多かったのですが、スターウェイ株式会社では、通い箱「イースターパック」を開発し、イースターパックを販売するのではなく、イースターパックを使用した輸送・梱包・データ管理を一括して提供するサービスを開始しました。
「梱包を含む商品の輸送およびそのデータ管理」という、機能・サービスを利用者に提供し、梱包材の所有者が「利用者」から「提供者」へと変更されています。「素材」「梱包」という川上、「データ管理」という川下の両側へ、ビジネスを拡大することに成功しています。
利用者にとっては、梱包作業の工数、梱包資材費用、梱包資材廃棄費用、管理工数、資材スペースを削減できます。また、データ管理の費用も削減できます。環境にとっては、梱包材の再利用による省資源化、廃棄物削減、緩衝材が不要であることによる省資源、廃棄物削減の効果があります。
このほか、顧客企業に対してユニフォームをレンタルし、回収・リユース・リサイクルを行うビジネスや、工場やオフィスビル等に蛍光ランプを販売せずに、快適な照明を提供する「あかり安心サービス」、空調設備のリース方式を組み合わせて、使用した空気の量に応じてお金を支払うビジネスモデル、イベント等で利用するリユース食器のレンタルサービス、利用者の敷地にサービス提供者が超純水製造装置を所有し、利用者に対し超純水を提供し、利用者が超純水の使用量に対して料金を支払うビジネスなど、さまざまなグリーン・サービサイジング・ビジネスがあります。
日本には昔から、富山の薬売りという、薬を無償で顧客の家に置き、後日、実際に使った分だけを精算する「先用後利」のサービスがあります。これに倣って、ユーザー宅を直接訪問し、医薬品などの生活関連商品を無償で信頼委託し、使用分だけを精算するサービスや、お菓子の専用ボックスやアイスクリームの専用冷凍庫を設置した職場に対し、菓子会社のサービススタッフが訪問して、商品補充や使用分の代金の回収を行うサービスもあります。
また、付加価値を提供するビジネスとして、無線通信機を内蔵した電気ポット「iポット」をお年寄りが使うと、その情報がインターネットを通じて、離れて暮らす家族に伝わる、象印マホービンの「みまもりほっとライン」があります。家庭用機器レンタルと監視サービスを組み合わせ、安心を提供しています。
サービスによるモノの代替化の例に、ヤマハミュージックメディアの「ぷりんと楽譜」があります。利用者は、自分のパソコンから弾きたい楽譜を1曲単位で購入・印刷でき、支払いもクレジットで決済できます。在庫をなくすことができるため、紙の消費が最小限に抑えられ、楽譜を紙で販売しないため、商品印刷に伴う消費エネルギーおよび流通で発生するエネルギーを削減できます。
報告書では、グリーン・サービサイジング・ビジネスの成功要因として、「サプライチェーン上での新たな領域の取り込み」や「囲い込みによる既存ビジネスのシェア拡大」などを挙げ、事業展開に際しては、(1)顧客組織との連携、(2)既存事業との連携、調整、(3)環境負荷低減効果のアピール、(4)顧客の所有意識・既成概念への対応などが重要であると指摘しています。
日本では、環境負荷低減への意識や、新しいビジネスモデルの模索、さまざまな環境関連規制の強化などを追い風に、これからも多くのグリーン・サービサイジング・ビジネスが試行錯誤をしながら増え続けるでしょう。「モノから機能・サービスへ」の動きはこれからも大きく広がっていきそうです。
(枝廣淳子)