ニュースレター

2007年08月01日

 

外食産業を超えて 食と農と環境を統合する取り組みを進める - 株式会社アレフ

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JFS ニュースレター No.59 (2007年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第60回
https://www.aleph-inc.co.jp/

アレフは、1968年、盛岡市にオープンした小さなハンバーガーとサラダの店から、ハンバーグ・レストラン「びっくりドンキー」のチェーン展開を始め、いまや北海道を中心に全国で300店近いレストランを、720人を超える社員と運営し、売上384億円(2007年3月期)をあげています。

「『食』」は『人を良くする』と書きます」と同社の庄司社長。「食産業」は「人を良くする生業(なりわい)」のはずなのに、今の日本は、世界の農地面積の1.4%しかない農地で、金額にして全世界の使用量の47%を占めるとまでいわれる大量の農薬を使っている----「企業は社会の中に存在しており、社会の不満や問題を解決することが企業の存在理由である」と信じる同社は、外食産業として、食材の段階から安心・安全を確保したいと取り組みを始めました。

ところが当時は、日本では有機農業はまだほとんど存在しておらず、安全の確保や環境保全をおこなう技術も十分に確立されていないことがわかったため、北海道の千歳空港近く恵庭に、自分たちの実験農場・実験牧場を設け、実践しながらの研究を開始しました。

安全で高品質な商品を安定的に供給する----「食」に携わる者の最低限の責任を果たすため、たとえば、食肉についてより深く学ぼうとアレフ牧場、アレフ農場を設立し、健康な土づくり牧草づくりから品種の選定、改良などに積極的に取り組み、経験と知識を蓄えてきました。「農薬漬けの日本の農業状況のなかで、健康を支える食品を自信をもって提供するためには、まず自分たちの手で安全な食品を確保する方法を模索しなければならない」との思いからです。このような取り組みの基盤となっているのが「損得よりも善悪の判断を重視する」「資本の論理を人間の論理でリードする」という庄司社長の経営哲学です。

たとえば、ハンバーグなどに使用しているナチュラルビーフは、ニュージーランドでは生産者と話し合って作ったアレフ独自の仕様にしたがって生産されています。生後9ヶ月で認定を受けた子牛は、抗生物質を一切使用せずに育てられます。まだ北海道でも、地球環境への負担の少ない管理放牧の研究会をつくって、その普及に努めています。

お米は、収穫までに毒性の弱い除草剤を1回しか使わないアレフと契約農家によるオリジナルの省農薬米です。従来方式に比べ、農薬使用量は95%も削減しています。取り組み開始から10年を経て、2006年4月には省農薬米を全店に導入できるようになりました。野菜や果物も同じように省農薬化をはかっています。ビールや乳製品なども独自に生産しています。

品質への責任を果たすために、食材の研究、生産から加工、流通、そして消費、サービスのすべてを含むバーティカル・インテグレーションシステムをつくりあげているアレフは、農業と外食産業を含めた、より大きな「食産業」を構想しているのです。

環境問題への取り組みにも力を入れています。自社リサイクル100%を目指した取り組みを1997年から始め、現在びっくりドンキー99店舗に生ゴミ処理機を、また20店舗に生ゴミ回収コンポストを設置し、有用微生物群の力を活かした粉砕乾燥処理機によって堆肥化資材への処理を行なっています。直営店での生ごみリサイクル率は約9割だそうです。

エネルギーについては、一年を通して一定(10-15℃)な地中の温度を利用して、通常の空調に比べて効率よく冷暖房を行える地中熱ヒートポンプシステムの導入を進めています。エネルギー使用量が通常のエアコンの約半分以下となり、レストラン全体のエネルギー使用量を25-30%削減できるシステムで、現在6店舗1工場に導入されています。オリエントジオサービスという別会社を設立し、自社で開発した地中熱ヒートポンプ技術の実績と経験を社会に提供しています。

「地元の小さな単位のエネルギー」を活用するための取り組みとして、バイオガスプラントも稼動しています。自社牧場で飼育されている家畜の糞、自社のビール工場から出るビールかすなどからメタンガスを取り出し、発電や熱利用を行っています。

アレフ北海道工場では、バイオガスや道産の木質ペレットを燃料とするペレットボイラーを活用し、地元と一緒になたねの栽培・収穫を進め、その使用済み油や店から出る廃食油をバイオディーゼル燃料化して配送車の燃料に用いるなど、総合的な「道産バイオマスエネルギー利用」を進めています。これらの取り組みによって同工場では、毎日灯油1,000リットル分のエネルギーを創出し、その分の化石燃料使用量や二酸化炭素排出量を削減しています。

同社の目標は、2020年までにエネルギー使用に関わる売上比CO2排出量を2000年の半分にすることです。環境への取り組みは、コストアップにつながると二の足を踏む企業も多い中で、同社では「当初の投資コストは上げずに、ランニングコストを下げることができる」と言います。たとえば、断熱材を厚くすると、その分費用は上がりますが、逆に空調負荷を下げるため、設備の負荷は下がり、安くすみます。また、雨水タンクも後付すれば、たとえば100万円かかるものが、最初から組み込めば30万円ですみ、水道料金を低減することで回収できます。

2006年6月に、恵庭市に同社の経営する「えこりん村」がオープンしました。農業・環境・文化をテーマに、広々した敷地に、庭園・飲食・農業と生態系などのゾーンがあります。冬にもたんぼに水を張る「ふゆみずたんぼ」によって、豊かな生態系が形作られています。農村コミュニティの活性化や、子どもたちが生命や食を学ぶ場として、新しい試みが始まったのです。
http://www.ecorinvillage.com/

「食」からの分野から、やがて農業や環境といった問題にかかわるようになってきたアレフ。「いま、従来の外食企業の姿からは想像もできないほどの大きな変貌を遂げつつあり、ますます面白くなっていきます」という同社のさらなる取り組みのその広がりに大いに期待しています。


(枝廣淳子)

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