ニュースレター

2006年05月01日

 

日本のグリーン・サービサイジングの動きと展開

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JFS ニュースレター No.44 (2006年4月号)

はじめに

2005年版環境白書に「サービサイジング」という言葉が登場しました。語句説明によると、「単なるモノの提供ではなく製品の機能を提供すること。顧客に付加価値をもたらしながら、製品製造における資源投入量の低減や使用量の適正化によって環境負荷を低減することを狙いとしている。欧州では、製品サービスシステム(PSS;product service system)と呼ばれる」とあります。いま、こうしたビジネスモデルが注目されています。

サービサイジングを導入することによって、「モノの購入や所有のあり方を見直すことによる資源消費量の適正化・合理化」「使用回数・時間等で料金を設定することによる使用量(活動量)の適正化」「事業者が使用済み製品を回収することによるリサイクルの進展」「製品の維持管理が伴うことや製品が廃棄されるまでの使用頻度の増加による製品寿命の有効活用」等の効果が期待されるとしています。

しかし、このような「モノではなく、機能を提供する」商売の考え方は、日本には古くから存在していました。一つの例として、江戸時代から現在まで300年以上続き、今でも地域によっては続いている「家庭の置き薬」があげられます。家庭常備薬セットを家庭に預け置き、定期的に訪問しては、使用した薬の分だけ代金を回収し、薬を補充したり古くなった薬を入れ替えるという商売のやり方です。これは、当時の富山藩(現在の富山県の一部)で始まった製薬業が「先用後利」の置き薬として全国に販路を広げたもので、「売薬さん」と呼ばれた販売担当者たちは各地間の情報伝達機能も果たしていたといわれます。

グリーン・サービサイジング

従来のサービサイジングに、より高い環境負荷低減効果を期待して提唱されている「サービス提供型のビジネス」が、「グリーン・サービサイジング」です。そのビジネス展開を通じて「製品の生産・流通・消費に要する資源・エネルギーの削減」、「使用済み製品の発生抑制」などに資する事業と定義されていますが、日本での動きを見てみましょう。

グリーン・サービサイジングといえば、米国のインターフェース社のカーペット事業がよく知られていますが、日本の(株)ダスキンは、これより早く1964年に化学ぞうきん「ホームダスキン」を発売し、レンタル方式での回収、再生、再利用に取り組み始めています。

2004年度の同社環境報告書によると、モップやマットを1日当たり約88万枚レンタルしています。顧客から回収した88万枚を工場へ持ち込み、洗浄・修理して再生した85万枚(96%)に新品の3万枚(4%)を補充してレンタルを繰り返します。品質検査により取り除かれた3万枚は原料として再利用しますが、最終的には回収したほこりと共にセメント生産の原燃料として再資源化されます。

同社では、ほこりを吸着剤によりキャッチするモップやマットのレンタルのほか、空気清浄機、集塵機、脱臭機などの機器のレンタルも行っており、定期的に回収し、修理、保守をすることで、顧客はその機能を十分に享受できます。さらに、製品の耐久性を向上する技術や修理技術を開発・導入することで、寿命の延長を図ることができます。寿命を全うした商品を再資源化する体制も構築されています。

レンタルシステムでは、商品の寿命が尽きるまで繰り返し再生利用されるため、顧客に商品の提供する機能やサービスを享受してもらいながら、省資源を図れるという利点があります。同社では、レンタルを通じて循環型の事業推進を目指しています。

グリーン・サービサイジングの別の例として、住宅産業の取り組みを紹介しましょう。日本の戸建て住宅は平均して約30年で建て替えられ、1棟あたりおよそ40トンの廃材が出るといわれています。家屋解体に伴って発生する廃材のリサイクル、リデュースに多くのメーカーが取り組み始めていますが、さらにリユースにも対応するシステムを構築した企業もあります。積水化学工業(株)が開発した再築システムです。

同社は1970年に、ユニット工法による戸建て住宅「セキスイハイム」の販売を開始し、2004年度までに累計55万戸を販売しています。ユニット工法とは、住宅を複数の直方体の箱(ユニット)からなる集合体ととらえ、工場内で各ユニットの内外装や設備の工事を行い、出来上がったユニットを現場で組み立てて住宅に仕上げるもので、建築工程の約8割を工場のラインで生産します。品質管理が行き届き、工期を短くできるなどの利点があるそうです。

同社の「再築システム」とは、セキスイハイムのユーザーが建て替えをおこなう際に、積水化学が住宅を下取りし、ユニットに分解して工場へ搬入して、補修・交換・最新設備へのリフォームなどを施し、再び組み立て「再築システムの家」として、新築同様の保証付きで、新築するよりも安価(7割程度)に販売するものです。これによって、水回り設備や内装などを除く建物部分について、約85%を有効にリユースできるそうです。

再築システムは2002年5月にスタートして以来、2005年9月現在で約50棟を再築し、重量ベースで約700トンの建築材料をリユースし、加えて、約1,250トンもの基礎部分のコンクリートや鉄筋などもリサイクルしました。

旧住宅の提供者は下取りしてもらえ、再築住宅の購入者は格安に住宅を入手できると、双方にメリットがあるため、再築の受注件数は伸びており、同社では、今後はアパートなどについても再築システムを展開することを考えています。

グリーン・サービサイジングモデル事業

経済産業省では、2005年度から「グリーン・サービサイジングモデル事業」を立ち上げました。「環境負荷低減」および「競争力を有する新たなビジネスモデルの創出」に資する先導的な「グリーン・サービサイジング事業」を発掘し、その展開を支援することを通じて、21世紀型の持続可能な社会構築に向けた事業活動が進展する契機とすることを目的としています。

同省ではモデル事業募集に応じた42件のなかから3件を採択しました。モデル事業は2005年8月から2006年2月まで実施され、3月に同事業の実績・成果が発表されました。現在は2006年度モデル事業の募集が始まっています。
http://www.japanfs.org/db/1202-j
http://www.meti.go.jp/policy/eco_business/servicizing/gs-index.html

採択された3件の一つ、(株)ユニフォークは、「企業向けユニフォームの販売代理店におけるリユースビジネスモデル創出事業」を提案しました。ユニフォームを顧客に売り切りで供給し、その後の廃棄等は企業自身に委ねている現在の仕組みを変え、ユニフォークが顧客企業に対してユニフォームをレンタルし、回収、リユース、リサイクルを行う仕組みを構築しようというものです。顧客企業の経費節減、販売代理店の経済利益を確保するとともに、大量のユニフォームの廃棄を抑制することを目指しています。

成果発表会での報告によると、ユニフォームの使用期間、レンタル期間を3年、従業員数100人のモデル事業の収支を検討した結果、顧客負担総額は売り切り販売に比べ、レンタルでは90%前後ですみます。ビジネス創出効果は、同社の位置する四国内の推定市場規模から約130億円。環境負荷低減効果は、従来通りユニフォーム100セットを廃棄する場合のCO2排出量1,618kgに対し、255kgと84%の削減です。

また、地域内リサイクルの関係構築に成功し、資源循環、加工原材料メリットを生み出すことができたとの報告でした。今春以降に本格的な営業活動を展開する予定です。

同社によると、グリーン・サービサイジング事業を推進していく上での課題としては、レンタル販売の仕組みづくり(課金システムなど)、レンタル販売付加価値の説明やリサイクルシステムの特色の説明(顧客企業の廃棄管理業務の負担軽減や環境負荷低減寄与度を具体的な数字で提示するなど)、レンタル販売の循環ができるまでの立替資金の手当て、などが挙げられています。

おわりに

モノの「所有」にこだわらず、モノの持つ「機能」に注目するサービサイジングの考え方は、持続可能な社会を目指す上で、ますます重要になっていくと思われます。個々の企業による取り組みも重要ですが、地域ぐるみ、他の業界も巻き込んだ取り組みも必要となってくることでしょう。「たくさん所有しなくても幸せ」という、「所有」と「幸せ」のデカップリング(分離)を推進する動きとしても、今後の展開が楽しみです。


(スタッフライター 小柴禧悦)

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