ニュースレター

2006年02月01日

 

日本のオーガニック農業・オーガニック食品事情

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.41 (2006年1月号)

環境に対する関心がますます深まっていく中、オーガニック農業やそれを原料として作られたオーガニック食品は、生きていく上で不可欠な「食」と環境保全に直結するため注目を集めています。日本は、その人口、所得、高齢化による健康志向、そして既にオーガニック農業とその製品の表示に関する法律を制定していることなどから、世界からはヨーロッパ、アメリカに次ぐオーガニック市場であると見られているようです。その一方で、食料自給率はカロリーベースで40%という非常に心もとない農業生産状態にあります。

では、日本のオーガニック農業生産はどうなのでしょうか。まずは、歴史から見ていくことにしましょう。

日本のオーガニック農業の発端は1970年代に遡ります。EUなどと同様、オーガニック農業の実践と普及を目指した生産者と消費者、あるいは研究者などが一体となった団体が形成され、少し遅れて消費者・生産者双方を会員とし、その間を流通がとりもつ形の組織も次々と誕生しました。このような消費者・生産者を流通でつなぐ組織がいわゆるクローズ型のオーガニック市場を形成し、長い間日本のオーガニック食品の大部分はこの閉じられた市場の中でのみ流通していました。

一方、いわゆる中央市場や青果市場などのオープン市場では、農産物は見た目のきれいさや大きさの分別など、大型流通に適しているかどうかで評価され、その農作物が安心・安全なのか、どのようにして作られたか、などはあまり気にされていませんでした。

当時はオーガニック農業生産に関して、現在のような法律もなければ、ガイドラインすらありませんでした。ですから、本当のオーガニック農産物も、ごく一部の肥料を有機肥料で賄って生産した農産物も、何を基準にどれくらいの農薬を減らしたのかも不明な"減"農薬も、すべてがあいまいな定義のまま「有機」という言葉だけが使われていたのです。

そのような状況が変化しはじめたのは1993年のことです。有機農産物に関するガイドラインが発表されたのです。これによって、本当の意味で有機農業に携わっていた人は、肥料の一部に、落ち葉や堆肥など有機物を使用して作られたものを使って栽培する「有機肥料栽培」や「減農薬」などとの差別化が少し図れるようになりました。それでも法的規制のないガイドラインでは不適切な表示を取り締まることはできず、生産者・消費者双方から、法制度に基づく表示の規制を求める声が出ていました。

時を同じくして、オーガニック農産物の認証に関する国際的な動きも高まってきます。EUは1991年に、オーガニック農産物に関する統一指令を発表し、EU加盟各国はそれに基づいて1993年より法制化しました。1999年7月には、コーデックス委員会がオーガニック食品の生産、加工、表示及び販売に関する国際ガイドラインを制定し、生産基準や第三者機関による検査・認証の仕組み、そしてオーガニック食品の表示の適正化についての指針を示しました。

日本でも、この動きを受けて、2000年に有機農産物に関する法律を制定し、2001年4月より有機農産物の日本農林規格(略称:有機JAS)が施行されることになりました。この法律は、制定当時は農産物のみに適用されましたが、2005年10月には畜産物に関する条項も加えられ、適用範囲が大きく広がりました。

そのような流れを経て、現在日本で生産されるオーガニック農産物は、収穫量も耕地面積もいまだ全体の0.1%です。もっともオーガニック率の高い緑茶で1.65%、日本を代表する作物である米は、0.12%にすぎません(数字はいずれも2004年度)。

世界からは大きくなる市場として熱い視線を浴びている日本で、オーガニック農業がこのように不振な理由の1つは、有機JASの認知不足です。オーガニック農産物に関するきちんとした取り決めができ、施行から5年が経過しようとしているにも関わらず、「有機」自体の認知度はあまり高くありません。オーガニックフェスタin東京2004来場者アンケートなどによると、「有機」と「無農薬」があれば「無農薬」を選ぶ消費者の方が多いというのが現状なのです。

バックアップ体制の欠如もその理由の1つです。オーガニック農業をおこなうには、畑で起きている現象を常によく観察・分析して、どうすればそれが良い方向に向かっていくかをしっかりと見据えたうえで行動する、という姿勢と自己管理能力が必要です。従来型の化学肥料や農薬に頼る農業のように、マニュアルに従ってインプットすれば、アウトプットが計算できるというものではありません。

また、認証を得るためには、細かな生産の記録も必要です。従来型の農業に比べて、労働時間は1.6倍もかかるにも関わらず、収量は15%以上少ないという数字からもわかる通り、コストのかかる生産方法なのです(2002年度稲作に関する農林水産統計より)。特に転換期は収穫が不安定であり、この時期の支援は、オーガニック農業に取り組もうという農家にとって非常に大きな支えとなります。

数字の上では、このように芳しくない状況にある日本のオーガニック農業ですが、全国各地の自治体では年を追うごとに取り組みが盛んになっています。農林水産省が、新たに制定した食料・農業・農村基本計画の中で、農業の持続的な発展のために環境保全を重視した施策の展開をうたい、2009年度末には10万人のエコファーマーを認定するという目標を掲げているためです。それに対応して、千葉県、北海道、高知県、島根県、岩手県など、各地で熱心な取り組みが続々と始まっています。実際、2005年3月末時点で既に75,699件のエコファーマーが認定されています。(エコファーマーとは、1999年7月に制定された「持続農業法」に基づき、「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を都道府県知事に提出して、その計画が適当である旨の認定を受けた農業者のこと)

たとえば、千葉県我孫子市では、農家・市民・消費者・行政・その他関係者が集まって、数年前から地元の農業の将来と市民への安心な農産物ということをテーマにシンポジウムなどを繰り返し、2004年1月に「あびこ型地産地消推進協議会」を設立しました。作る人、食べる人の健康、環境、自然を大切にした農産物を地元で生産し、地元で消費することを推進しています。

具体的には、生産基準ガイドラインを制定する一方で、農家には正確な栽培履歴の記入を依頼し、それに基づき、評価委員会が認証を行います。認証の結果は、栽培状況に応じて金・オレンジ・緑の3種類のシールで区別されます。各農家は、そのシールを添付した農産物を毎月定期的に公共施設の広場で販売するのです。実際に生産者と消費者が顔を合わせるという効果から、最初は緑シール(減農薬・減化学肥料に取り組んでいるが、50%までは減らせていないもの)の農産物が多かったのが、現在では95%までが金(生産過程において、化学肥料・化学合成農薬をまったく使用していないもの)とオレンジ(国や都道府県が定める農薬・化学肥料の基準使用量よりも50%以上減らして栽培したもの)のシールになりました。協議会は、このメインの活動以外にも、援農ボランティアの育成や農業技術支援、学校給食や福祉施設へのエコ農産物供給による食育事業なども進めて、地元を盛り上げています。

消費者サイドでも、食品に関わる展示会などでは、必ずオーガニックのコーナーが作られたり、前述のオーガニックフェスタといったオーガニックそのものをテーマにしたイベントも増えており、その動員数も年々増加しています。オーガニックコンシェルジュ、野菜のソムリエといった資格も登場し、オーガニックに対する消費者の関心が高まっていることが伺えます。

各地のこうした動きがつながり、生産が増えていけば、「環境が守られ、さらには改善され、近隣で作られた安心できる農産物を入手でき、農産物や化学肥料の原料を輸入に頼る必要がなくなり、持続力のある農業が確立」していくでしょう。そのためには、消費者はオーガニック食品を購入することで、生産者はオーガニック農業に取り組むことで、自分も貢献できることに気づく必要があります。そうして、日本でオーガニック農業をはじめとする環境保全型農業の需要と供給がどんどん伸びていくことを強く願っています。


(スタッフライター 長谷川浩代)

English  

 


 

このページの先頭へ