ニュースレター

2005年08月01日

 

精神的豊かさを提供するエコロジカルリゾート - 株式会社星野リゾート

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JFS ニュースレター No.35 (2005年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第26回
http://www.hoshinoresort.com/

東京から北西に約150km、長野県の東端に、100年以上前から日本を代表する避暑地として愛されている「軽井沢」があります。雄大な浅間山麓に広がる美しい高原の町です。

1904年、星野リゾートはこの軽井沢の地に誕生しました。豊かな自然を楽しむ滞在型のリゾートを目指して、28万坪の敷地に、星野温泉旅館、軽井沢高原教会、野鳥の森などを開設。2005年7月20日には、日本らしさを追求した温泉旅館「星のや」をオープンさせました。

同社の企業理念は、「精神的豊かさの提供」です。豊かな自然と最高のおもてなしで、物質だけでは得られない心で感じる豊かさをお客様に提供したいという思いから、創業以来、自然環境に配慮して運営してきました。日本で本格的なリゾート経営が盛んになった1980年代後半からは、『リゾート運営の達人』というビジョンを掲げ、「環境に対する負荷を最小限にとどめながら、同時にリゾートの魅力を顧客に表現することで、常に最高の顧客満足と運営収益を生み出すこと」を目標に環境経営を推進しています。

また、軽井沢で培ったノウハウを活かしてリゾート再生事業にも取り組み、軽井沢の他に、リゾナーレ小淵沢(山梨県)、アルツ磐梯リゾート(福島県)、アルファリゾート・トマム(北海道)の3つのリゾート施設を経営しています。2004年の連結売上高は133億円、約800人の従業員が働いています。

同社の環境経営は3つの要素から成り立っています。それは、施設面から環境を配慮する「EIMY」と「ゼロエミッション」、自然を楽しむアクティビティとしての「エコツーリズム」です。

自然エネルギー自給率75%

「EIMY」とは、Energy In My Yard の頭文字をとったもので、自分たちの使うエネルギーはできる限り自らの場所の自然エネルギーでまかなおうという考え方です。もともと星野温泉旅館では、自家で電力をまかなわねばならず、敷地内を流れる川を利用した水力発電を行って電力のほとんどを自給してきました。しかし、暖房と給湯など熱エネルギーの供給は化石燃料に頼り、エネルギーの自給率は長らく20%程度に留まっていました。

最新施設「星のや」では、EIMYの実現に挑戦し、温泉排湯と地中熱を組み合わせた熱源を導入しました。地中を熱源とするヒートポンプを利用する地中熱利用は、欧米ではすでに普及していますが、日本では普及が始まったばかりです。また、大型の宿泊施設への導入は世界でも例が少ないそうです。

星野リゾートは、地質工学の専門家を採用して、軽井沢の地質特性に合わせた技術改良を行い、1年間の熱源の需要を綿密に調査して大きな変動にも耐えうる地熱利用システムを設計しました。これによって、星のやの自然エネルギー自給率は75%にまで高まる見込みです。

目指すは再資源化率100%

焼却・埋め立てするごみゼロを目指す「ゼロエミッション」の全社的プロジェクトは、1999年12月にスタートしました。

まず行ったのは、自分たちの出しているごみの全量と内訳を把握するための計量です。それまでは、どんなごみがどれくらい出ているのか、リサイクルされているのか、全くわかっていませんでした。パート社員を含む全従業員に協力を求め、全員が分別・計量ができるまで、推進メンバーが出されたごみを点検し不十分な箇所を指摘しました。3ヶ月目から、全てのごみが正しく分別・計量されるようになりました。

測定の結果、1999年12月からの1年間に軽井沢の2つの旅館・ホテルから出された排出物の再資源化率はわずか17%でした。再資源化率を高めるため、できることから始めようと、コピー用紙のリサイクル、羽布団の児童養護施設への寄付など、社員からごみ削減のための提案を募って、活動の輪を広げていきました。

軽井沢地区では生ごみが4割以上を占めますが、食べ残しを含むため油分が多く、一般の生ごみ処理機では堆肥化が困難でした。しかし、さまざまな調査を続け、地域のNPOの協力も得て、近隣の牧場で作っている堆肥に混ぜてもらい、生ごみの全量を堆肥化できることになりました。さらに、この堆肥を使っている農園とのつながりができ、そこで採れた野菜を仕入れてホテルの食事で提供する、という資源循環の輪も生まれました。

その他、ブライダル写真のデジタル化、選択式メニューの採用でパーティ料理の食べ残し削減など現場からの多くの提案が積み重ねられ、取り組みをはじめて5年後の2004年には、軽井沢地区の再資源化率は76%に向上しています。さらに、ゼロエミッション活動を通じて業務の無駄が見えてきて、ごみと関係が無いところでもコスト削減できた、という副次的効果も生まれています。

これらの努力が認められ、星野リゾートは、グリーン購入ネットワーク(GPN)が主催する「第6回 グリーン購入大賞(2003年)」で、ホテル・旅館部門で初めて環境大臣賞を受賞しました。
http://www.japanfs.org/db/500-j

地域生態系を保全するエコツーリズム

環境経営の3つめの要素「エコツーリズム」は、自然や生態系に関する調査研究に基づいて、その魅力や大切さを伝え、お客様に楽しんでもらおうという活動です。加えて、地域の自然を保全し野生動植物と共生することも大切な活動の一つです。同社のエコツーリズム事業を受け持つ子会社ピッキオは、良質なプログラムの提供と、人とクマの共存を目指したツキノワグマの保護管理事業による地域貢献が評価され、2005年6月には環境省が新たに設置した第1回エコツーリズム大賞に選ばれています。
http://www.picchio.co.jp/index.html
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5987

環境経営の考え方

EIMYもゼロエミッションも、宿泊しているお客様には見えない取り組みです。お客様にとって、リゾートの魅力は、自然の豊かさ・美しさ、コストに見合う料理や温泉の満足感、接客サービスの気持ちよさであって、施設の環境配慮を一番の魅力に感じるお客様はほとんどいません。

それにもかかわらず、星野リゾートは、なぜ環境経営に力を入れるのでしょうか?一つは経営上のリスクマネジメントです。化石燃料や廃棄物処理コストは年々増加しており、これらのコスト削減は、競争力強化の重要な課題です。また、「リゾート開発は自然破壊である」というマイナスイメージの高まりも、今後リスク要因となってくると同社は考えています。お客様は環境への取り組みに魅力を感じて来てくれるわけではないが、環境に取り組まなければ選んでもらえない時代になると予測しているのです。

そして、リゾート運営会社としての事業展開上、投資家やオーナーからの経営品質のレベルが問われた時に、環境経営は強力な武器になります。とりわけ、第三セクターなど地方自治体がリゾート開発に関係している場合、地域の資産である自然環境をきちんと保全してくれる事業者は説得力を持って有利に取引ができます。

新規採用にもよい影響が出ています。若い人たちには、環境問題に敏感で環境に配慮した企業で働きたいという人が増えており、優れた人材を確保できるようになりました。

日本の宿泊業は8割が赤字経営だといわれており、環境経営に積極的な企業は数えるほどしかありません。GPNでは、環境への取り組みが進んだ宿泊施設を選択・利用するための「エコチャレンジホテル旅館データベース」を公開していますが、日本全国に約6万5千件ある宿泊施設の1%にも満たない285件しか登録されていません。(2005年7月現在)。
http://www.ecochallenge.jp/index.html

宿泊施設の環境への取り組みは、宿泊客増加に直接つながりにくいため、経営状況が悪化すれば真っ先に削減対象になります。従ってコストがアップする方法では取り組めません。星野リゾートは、全ての環境対策を、費用をかけずにでき、投資しても短期間で回収し採算がとれることを条件に進めています。前述した地熱利用システムは、投資を2年で回収し、3年目にはコスト削減を見込んでいますし、生ごみの堆肥化も、生ごみを運んだ帰りのトラックで、仕入れた野菜を運ぶことで運搬費用を抑えています。

これからの取り組み

同社の今後の課題は、軽井沢に加え、山梨、福島、北海道で運営するリゾートを、いかにエコロジカルなリゾートに変えていくかということです。豊かな自然が与えてくれるエネルギーをいつまでもお客様に提供しつづけるために、『リゾート運営の達人』として、同社の活躍を期待しています。


(スタッフライター 西条江利子)

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