ニュースレター

2005年07月01日

 

まだまだ知らない日本の再発見 - グリーンツーリズム

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JFS ニュースレター No.34 (2005年6月号)

近ごろ「グリーン・ツーリズム」という言葉を日本でもずいぶん耳にするようになってきました。ヨーロッパではおなじみのこの言葉ですが、日本では「田舎体験」や「ふるさと体験」という言葉でイメージされることが多いようです。これまでの日本では団体・宴会型の旅行が中心でしたが、個人の生活が豊かになるにつれ、自然に触れたいという欲求や日本文化の元となった農山漁村での生活体験に関心が集まりつつあります。

この言葉が日本で公式に使われたのは、1992年に農林水産省が「グリーン・ツーリズム研究会」を発足したあたりからです。欧米の都市生活者が農山漁村でのんびりと保養する時間を持ち、農山漁村の価値を高く評価していることから、日本においても農山漁村の価値を都市生活者に知ってもらうとともに、農的なふれあいによる交流を活発化させる方法の研究が始まりました。グリーン・ツーリズムは都市と農山漁村の共生、交流を生み出すきっかけとして重要な役割を果たすものと位置付けられるようになり、海外に向けても東京や京都といった大都市だけではない、日本の自然や文化の魅力をアピールするのに少なからぬ役割を担っています。

2001年には総合的にグリーン・ツーリズムを推進するために、情報提供や人材の育成などを支援する財団法人都市農山漁村交流活性化機構が設立されました。都市と農山漁村の互いのニーズを汲み取り、双方が豊かさを享受できる新しい仕組みづくりをめざし、グリーン・ツーリズム情報を発信するポータルサイトの立ち上げを始め、パンフレットやガイドブックの作成、地域活性化の支援や交流事業などを実施しています。

さらに2003年には「都市と農山漁村の共生・対流推進会議(オーライ!ニッポン会議)」が設立されました。「オーライ!ニッポン」というのは、都市と農山漁村を人々が活発に「往来」し、双方の生活文化を楽しむことで日本がall right(健全)になることを表現しています。同年より「オーライ!ニッポン大賞」の表彰事業も開始し、様々な形で都市と農村の交流を進めている全国各地の事例を表彰、発表することでさらなる展開を図ろうとしています。

日本は世界でも長期休暇が少ない、あるいは短いことで知られていますが、そのため、滞在型といってもせいぜい週末レベルの短いものが主流です。また、ヨーロッパではただ滞在してのんびり過ごしている光景もよく見かけますが、日本の場合、「日常と違う何かを体験する」ことが主目的になっていることが多く、現地の特産品である味噌や蕎麦などの健康かつ伝統的な食品づくりや木工や竹細工などの工芸品づくり、農産物の収穫や森林の枝打ちなどの農作業体験、あるいは乗馬やラフティングといったスポーツなど、受け入れ側でもさまざまな工夫を凝らして、体験できるものを準備しています。このような情報は、前述の都市農山漁村交流活性化機構や地方自治体のサイトなどから精力的に発信されています。

グリーン・ツーリズムによる「都市と農山漁村の交流・共生」には、2つの重要な意味があります。1つは、「農山漁村に対する理解を深め、その環境を日本全体で守る仕組みができる」ことです。現在、自然と完全に隔離された状態で暮らす都市住民が、グリーン・ツーリズムによって、食料をはじめとする生産の現場に直接触れることができます。野菜や果物がどのように実をつけるのか、米の田植えや草取り、稲刈りがどのような作業なのか、目で見て実際に体験できるのです。

その経験は、自分がふだん口にしている食物を取り巻く環境や流通についても大いに考えるきっかけとなるはずです。特に、子供たちにとって、そうした1つ1つの経験が後々の人生に大きな影響を与えるものとなるでしょう。

このことは、農山漁村の住民にとっても重要な意味を持っています。今ではもう高齢の人にしかできなくなっていた伝統技術などを、都市からの訪問者に体験させるため、改めて自分でも身に付けようとする人が村の中で増えています。最初は都市からの訪問者を増やす目的で始めた町や村の体験施設や交流施設の整備や地場産品販売所などが、結果的に地域を見直し、活気づけるなど、自分たちの地域の歴史や文化を知り、再発見し、再評価し、守ることにつながっているのです。

戦後から高度経済成長の時期には、都市へと人が集中しました。その結果、地方からは働き手も雇用も失われ、「過疎」という日本語がそのまま外国で通用してしまうほど、地方の村々から人がいなくなることが大きな問題となりました。農家の3分の2以上が65歳以上というのが現状です。

しかし、グリーン・ツーリズムによって、人や資金が都市から地方へ、という逆の流れが生じることで、地方が活性化し、地域を守ろうという動きが出てきています。棚田の保全などは好例でしょう。オーナー制度という形で都市の住民が資金を出し、現場にも年に数回訪れ、田植えや草取り、稲刈りなど、もっとも作業が大変な時期に「体験」という形で手伝うしくみです。

都市の住民は、日常とは違う体験にリフレッシュされ、収穫時には自分も手をかけた米を手に入れることができます。田を守る農村の住民は、一時的にでも労働力を得ることができ、オーナーがいることで安定した収入も確保できます。まさに両者にとって嬉しい仕組みであるうえ、お互いの交流が進むことで、双方に「棚田を守っていく」意識も生まれます。

2つめの重要な意味は経済効果です。レジャー白書2003は、仮に現在の日本で、未消化となっている年間9日間の有給休暇をすべて消化すると、消費が11兆8千億円増加し、雇用も148万人増えるというものです(ちなみに、2002年の調査では、日本人の年間宿泊日数は平均3.5日で、ドイツの20.1日、フランスの15.8日に比べて格段に少ないです)。

この雇用創出は、2002年時点の失業者約340万人の44%にあたります。農山漁村で休暇を過ごすグリーン・ツーリズムによって、停滞している経済が動き始める可能性があるのです。これまで、都市という心臓付近しか回っていなかった人・資金という血液が、地方という全身の隅々にまで行き渡ることで、日本という大きな体が再び元気になれる可能性を秘めているのです。

日本のグリーン・ツーリズムは、流れとしてはまだ大きなものではありません。けれども、都市の住民にとっても、農山漁村の住民にとっても、体験してみると非常に気持ちの良いことですから、時間はかかっても確実に広がっていくことと思われます。自分のライフスタイルや人生を考えたとき、本当に大切なのは何なのか。何をやってみたいのか。自分で探し、行動してみることで、自分を再発見し、地元を再発見し、日本という国を再発見していく----「観光」とは明らかに違うグリーン・ツーリズムには、そんな面白さも含まれているのです。

参考URL
http://www.kouryu.or.jp/ 都市農山漁村交流活性化機構(まちむら交流きこう)


(スタッフライター 長谷川浩代)

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