ニュースレター

2005年06月01日

 

「それだけのこと」のパワーを信じて - 広がりつつある新しいタイプの環境活動

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JFS ニュースレター No.33 (2005年5月号)

モノや情報、エネルギーを大量消費してきた20世紀型の文明を見直そうという動きが日本でも大きく広がってきています。政府や自治体も呼びかけていますし、企業の取り組みとしても、また地域でも市民グループなどがそれぞれの活動を展開しています。

そのような中で、ここ数年、日本で新しいタイプの活動が出てきています。「小さなことだけどやってみよう」「自分ひとりじゃないという連帯感を感じよう」「伝え、つなげ、気づくためのきっかけにしよう」、そして、「みけんにしわを寄せてやるのではなく、その時間を楽しもう!」というものです。

こうして、だれにでも簡単に参加でき、友だちや家族を誘って楽しめるワクワクする活動が広がっていく中で、ふだんとは違う時の流れや自分の心、家族や友人、地域や地球とのつながりに気づく人が増えています。「成長ありき」「効率第一主義」「大量生産・大量消費」というふだんの経済の前提に疑問を呈し、「本当の幸せとは何だろう?」「自分は本当はどのように生きたいのだろう?」と考え直すきっかけを提供する取り組みとも言えます。

そのような取り組みの一つを紹介しましょう。「でんきを消して、スローな夜を」。このスローガンのもと、2003年6月22日の夏至の夜、いくつかの日本の環境系NGOが中心となり、「100万人のキャンドルナイト」が初めて行われました。
http://www.candle-night.org/

夏至の夜の8時から10時までの2時間、電気を消してロウソクの灯りの下、思い思いの時間を楽しもうというものです。数年前に米国で始まった自主停電運動の流れを汲む取り組みですが、「省エネ」や「反原発」などの政治的なメッセージを超えて、「でんきを消して、スローな夜を」それぞれに楽しんでみよう、という幅の広い趣旨が多くの賛同を呼びました。

キャンドルの灯りの下で、食事をする。音楽を聴く。お風呂に入る。地域で行われているイベントに足を運ぶ人もいれば、テレビのない静かな夜を思い思いに楽しむ人もいます。いつもの日常とは違う2時間を過ごすことで、自分のライフスタイルを見直すきっかけとなっているようです。モノや情報を一時的にオフにすることで見えてくる「もう一つの時間」「もっと多様な豊かさの尺度」を社会的な経験として共有しようという自主参加型の文化創造イベントなのです。 
http://www.candle-night.org/2005summer/whats/index.html

また、「100万人のキャンドルナイト」は「ゆるやかにつながること」を大切にし、それぞれが思い思いの立場で参加できる「広場」のようなムーブメントとなっています。その「つながり」に一役買っているのが、携帯電話やインターネットなどの先端的なIT技術です。

実行委員会の事務局では、本番の数週間前から、インターネットを通じて参加メッセージを募集。参加メッセージと居住地の郵便番号を送ると、ホームページの日本地図上で、リアルタイムに光の点となって参加者が表示されます。この「キャンドルスケープ」によって、参加者は思いを共有する全国の参加者の存在を実感できるのです。

また、2時間の消灯直後に、自分が過ごしたキャンドルナイトの「写メール」を送ると、ウエブ上にリアルタイムで表示される「キャンドル・カレイドスコープ」も、さらにその一体感を強めてくれています。
http://www.candle-night.org/2004summer/

この市民参加型のネットワークイベントに、様々な分野のアーティスト、環境省、企業、自治体などが賛同して参加しています。2003年の第1回は、日本全体で500万人が参加し(環境省推定)、東京タワーや姫路城など全国で200以上の大型施設の照明が消されました。東京電力の協力でその夜の消費電力のグラフも公表されたほか、衛星写真で、全国の消灯の様子をビジュアル化するなどの試みも行われました。
http://www.candle-night.org/2003summer/

2004年の夏至には、全国で6,000カ所以上の施設の照明が消え、コンビニエンスストアも自主的に看板の消灯に参加しました。参加者は推定で650万人となり、全国各地でそれぞれの地域ならではの多彩なキャンドルイベントが行われました。そのほか、バリ、ブラジル、エクアドルでもイベントが行われるなど、海外へも広がりつつあります。
http://www.candle-night.org/2004summer/

現在、2005年の夏至に向けて、各地で準備が進んでいます。政府・自治体、企業、市民の枠を超え、キャンドルナイトは大きなトレンドとして定着しつつあるようです。
http://www.candle-night.org/

上記ウェブサイトから、英語のニュースレターの登録ができます。日本や世界での「100万人のキャンドルナイト」の今後の広がりにご興味のある方は、よろしければぜひどうぞ。

もうひとつ、同じように「だれにでもできる活動を広く呼びかけることで、気づきのうねりを広げよう」という取り組みをご紹介しましょう。「打ち水大作戦」です。
http://www.uchimizu.jp/

 日時を決めて、
 残り湯など二次利用水をつかって、
 みんなで、いっせいに打ち水をする。
 たったそれだけのこと。

 たったそれだけのことで、真夏の気温を下げられる。
 たったそれだけのことで、ヒートアイランド対策に効果をあげる。
 たったそれだけのことで、真夏の電力エネルギーの節約になる。
 たったそれだけのことで、地球にやさしい人になれる。
 たったそれだけのことで、体も気持ちも爽やかになれる。
 たったそれだけのことで、コミュニティがひとつになれる。
 たったそれだけのことで、みんながハッピーになれる。

という呼びかけで、2003年8月25日正午に、日本初(もちろん世界初)の大江戸打ち水大作戦が行なわれ、多くの人々があらためて「江戸の知恵」打ち水の素晴らしさに気づきました。「たったそれだけのこと」に、強い確信と大きな喜びをもって、打ち水大作戦の試みが展開しています。

2004年には、「風をおこそう」を合い言葉に、「みんなの手で、都心の気温を2℃下げよう」という目標を掲げました。第1回は、30数万人が参加して1℃下げられたのです。国土交通省の土木研究所の散水効果を試算したデータに基づき、シミュレーションどおりの規模の社会実験を実現したいと取り組みました。

「100万人のキャンドルナイト」も「打ち水大作戦」も、その行動自体がどれほどの環境負荷を削減できたのか?と問うと、それほど大きなものではありません。しかし、地球環境問題とは、私たちの生き方や幸せに関わる問題でもあります。いくら最先端の技術があっても、いくら優れた製品や制度ができたとしても、私たち一人一人の「どのように暮らすのか」「何を大切だと考えているのか」を抜きに、持続可能な社会への歩みを進めることはできないでしょう。

そういった意味で「たったそれだけのこと」の意味と意義、そして実際にやってみることの楽しさを届けることで、社会変動のうねりを広げようという新しいタイプの取り組みの展開に注目しています。


(枝廣淳子)

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