ニュースレター

2005年05月01日

 

100年後の地球と人類の存続をかけて - 2つの温暖化阻止へ東京都の挑戦

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JFS ニュースレター No.32 (2005年4月号)

2005年2月16日、「気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)」で採択された京都議定書がようやく発効しました。

議長国である日本では1998年6月に決定した、2010年に向けて緊急に推進すべき対策をとりまとめた「地球温暖化対策推進大綱」に加えて、「省エネルギー法」の改正や「地球温暖化対策推進法」が制定され、温室効果ガスの1990年比6%削減を達成するために、国、自治体、事業者、国民の責務、役割が明らかにされました。

国にさきがけてこの深刻な事態への対応に取り組んでいる先駆的な自治体がいくつかあります。日本の首都、東京都もそのひとつです。


東京をとりまく2つの温暖化

約400年前、徳川家康が幕府を開き、「参勤交代(1635年)」、「明暦の大火(1657年)」、「新田開発(1722年)」などをきっかけに面積を広げ、大都市へと発展した江戸(東京)は、1721年には推定人口が130万人と、北京(90万人)、ロンドン(86万人)を超えて世界一だったといわれています。当時は、食糧やエネルギーを地域内でまかなう循環型社会だったということは、JFSの「大江戸プロジェクト」でもご紹介のとおりです。
http://www.japanfs.org/en/pages/009397.html (英語)

明治時代以降の東京は、第二次世界大戦後の経済復興期・高度経済成長期などを経て一極集中化が進み、1962年に人口は1000万人を突破。2005年現在、1200万人を超える人が、面積約2100平方キロメートルのエリアに住んでいます。2001年の総務省の調査によれば、東京都では、72万を超える事業所に860万人が働き、都内総生産額は、ブラジル、カナダのGDPとほぼ同じ85兆円に上っています。

このような経済成長と歩調をあわせるように、「スプロール現象」が起こりました。都心に官庁や企業のオフィスが集中し、交通渋滞が起こり大気汚染や騒音など、健康に被害を及ぼす公害問題や大量に排出されるごみ問題も深刻化しました。

「都市問題」といわれるこれらの現象を解決するために、国は1956年に首都圏整備法を制定し、東京の周辺に工場や大学などの機能を移転して都心の過密を防ごうとしました。環境対策についても、都は国に先駆けて公害防止条例を制定するなど、早くから独自に取り組んできましたが、近年浮上してきた新たな「都市問題」への取り組みが、温室効果ガスによる地球温暖化と、ヒートアイランド現象という2つの温暖化阻止への対策です。


地球温暖化阻止!東京作戦

東京では、過去100年間に年平均気温が約3℃上昇しています。地球温暖化による影響に加え、都市の温暖化(ヒートアイランド現象)は、1990年代以降の夏場に30℃を超える真夏日や25℃を超える熱帯夜の増加とともに、熱中症による死亡者の増加や集中豪雨という深刻な事態を引き起こしています。

ヒートアイランド現象は、環境への配慮が不十分だったこれまでの都市づくりの結果生まれているものですが、その原因として、建物や自動車からの排熱の増加や緑地の減少、地表面のアスファルト化、乱立する高層ビル群が風の道をふさぐことなどが挙げられています。東京都では、ヒートアイランド現象による気温上昇の結果、エネルギー使用量が増大し、さらに、排熱や温室効果ガスが増加するという悪循環が生じています。

2002年1月、「環境基本計画」のなかで、2010年までに東京都の温室効果ガス排出量を1990年比6%削減するという目標を掲げた都は、同年2月から、「地球温暖化阻止!東京作戦」という独自の対策を開始しました。「日本の地球温暖化対策を東京から強化していく」「東京を省エネルギー型都市に変えていく」「環境産業を拡大する」という3つの目標のもとに、5つの政策提言と7つのアクションを起こし、東京を持続可能な都市へとつくりかえようというものです。

夏場の2カ月間は全国157店の家電販売店と協力して「少エネ商品拡大キャンペーン」が実施されました。これは店頭のエアコン、冷蔵庫に消費電力量などがひと目で分かる独自のラベルを表示することで、購入者に省エネルギー商品の選別を促すものです。同時に、国内のCO2排出量取引の具体的なあり方について、先駆的な監査法人や企業、金融機関、NGOなどとの共同検討も進められました。

これらの成果をもとに2002年11月、温暖化問題に対する都の政策スタンスを、3つの基本理念のもとで6つの挑戦をする「基本方針」として明らかにし、「地球温暖化阻止!東京作戦」は第2ステージへと進みました。


『明日世界が滅びるとしても、今日リンゴの木を植える』

2005年4月、都が明らかにした「基本方針」の一部の制度が条例化されました。新設された制度のひとつは、都内へエネルギーを供給している電力会社などにCO2排出係数(1kwh発電するときに排出されるCO2の量)と削減目標、再生可能エネルギーの導入実績と目標を計画書、報告書として提出し公表することを義務付けるものです。

もうひとつは、2002年から夏場のキャンペーンとして取り組んできた家電製品の省エネラベルの店頭表示を、家電販売者に義務付ける「省エネラベリング制度」です。都独自の省エネラベルの取り組みは、2004年にはNGOなどの協力のもとで首都圏8つの自治体の共通ラベルによるキャンペーンに拡大しています。今後は都をはじめとする先駆的な自治体の取り組みとして、全国共通の省エネラベル制度へと発展させることをめざしています。

さらに2つの制度がより強化されることになりました。これまでエネルギー使用量が大きい大規模事業者(燃料・熱年間使用量1500kl.以上、または電気の使用量600万kwh以上)は、自らの事業活動によるCO2排出量を把握し、計画書の提出と公表が義務付けられてきましたが、さらに対象事業所を国や自治体など公共部門にも広げ、しくみの強化が図られます。

また、省エネルギーなど環境に配慮した建物づくりを進める「建築物環境計画書」制度では、規模の大きなビルやマンションなどの建設・増築の際には、環境配慮の有無を購入者にわかるように表示すること、建築主はヒートアイランド対策を考慮しなければならないことを規定しました。東京に建つビルの多くが建て替え時期を迎えており、一方、地価の下落から都心での大規模マンションの建設が相次ぐ中、今後は多くの環境に配慮したビルの出現が期待されます。

東京臨海部の埋立地には、2003年より2基の風車がまわり、年間250万kwhの電力を発電しています。江東区有明地区には燃料電池車用の水素ステーションも登場し、全国初の燃料電池バスの運行試験も実施されました(2004年12月28日終了)。これらの取り組みは民間事業者と共同で始められたものです。「東京」という世界規模の技術をもつ企業や人材の集まっている場所であればこそ、ともいえます。

東京都の取り組みはこれにとどまるものではありません。金融、物流、環境教育などの分野で、都と志のある企業、団体、NGO、都民などが連携してすすめる、温暖化対策プロジェクトも次々と進みつつあるのです。

東京というひとつの国家に匹敵する巨大な都市が、持続可能な都市へと動きだしています。「現在」を生きる私たち一人ひとりが未来に希望をつなぐためにできること、東京都の言うところの「自分たちの手でリンゴの木を植えていく行動」の広がりと影響力に要注目!です。

参考
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/ 東京都環境局


(スタッフライター 八木和美)

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