ニュースレター

2004年07月01日

 

「投融資と知識・情報により持続可能な社会を目指す」 - 日本政策投資銀行 

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JFS ニュースレター No.22 (2004年6月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第14回
http://www.dbj.jp/

日本政策投資銀行とは

日本政策投資銀行(DBJ: Development Bank of Japan)は、1999年に発足した国が100%出資する総合政策金融機関です。銀行には、民間の銀行と政府系の銀行がありますが、同行は「国民生活を豊かにすること」を使命に、政策的意味合いの高いプロジェクトに投融資を行ったり、知識・情報面からの支援を行ったりする政府系金融機関です。2003年度には1,370人の職員が働いており、約16.3兆円の総資産の内15.7兆円をプロジェクトに貸出しています。

DBJでは、地域・環境・技術という分野で、政策的に重要であるにも関わらず採算性やリスクなどの観点から民間の金融機関だけでは十分な対応ができない事業に対し、長期の融資や投資などを行います。自然エネルギーを利用するプロジェクトや、燃料電池のような新しい技術の普及も、充分な資金の裏づけがあって初めて可能になります。金融機関は、こうしたプロジェクトを実現するための資金提供という役割を担っており、環境問題の解決に向けて重要な役割を担っていると同行は考えています。

実際、DBJにとって、環境分野への投融資はますます重要なものになっています。DBJは母体の一つである旧日本開発銀行が1960年度に公害防止融資を開始して以来、環境政策の展開に対応して融資制度を整備し、企業などの対策を支援してきました。その規模は過去40年余りの間に約3兆円に達しています。この融資が呼び水となり民間金融機関の協調融資などにより投資された分をあわせると、およそ10兆円の環境対策投資を支援したことになります。

積極的なアプローチその1 環境格付けによる融資制度

従来から行ってきた環境プロジェクトの支援に加えて、2004年4月から、環境格付けの評価手法を取り入れて環境に配慮した企業経営を支援する制度を開始しました。
http://www.japanfs.org/db/599-j

これは、融資先企業の環境経営への取組みを更に進化させるためのものです。従来の投融資は、例えば製造業の会社であれば、製造工程のある設備投資に融資をする、または、その企業のあるプロジェクトに融資をする、というものでした。それに対し新しい制度では、個々の工程やプロジェクトではなく、会社の体制、組織、実際のパフォーマンスなどを全体として評価し、積極的な取組みを行っている企業の資金調達条件そのものを改善していこうとします。

この制度における環境活動の評価は、従来の環境格付けとは少し違ったやり方を採用しています。これまでの環境格付けは、企業数が多く環境負荷の所在が比較的明解である製造業(とくに加工組立型)を対象としたものになりやすく、その他の素材産業やサービス産業の実体にそぐわないという批判を受けることがありました。この課題を克服するために、この格付けは、各業種別にそれぞれに適した内容や評価基準を作成しています。製造業では加工組立産業と素材産業は別に、また、非製造業でもいくつもの業種に分かれています。

2004年4月にこの制度を立ち上げてから、6月初めの時点で約80社の格付けを行っています。大手企業だけではなく、約2割は中小企業であり、地域、業種も多様です。運営にあたる小畑健雄氏(社会環境グループリーダー 政策企画部課長)は、この制度の目的は「トップランナーを表彰するためだけにあるのではなく、規模や業種に関わらず、環境に積極的に取組む企業が金利面、認知面のメリットを得られるようにすること」だとして、「環境に積極的に取組んでいる企業はぜひ申請してほしい」と言っています。

「今後の取組みを通し、最終的には一般の消費者にもこの制度が認知されるようにしたい」と語る同氏は、この制度が更に普及し、政策効果を発揮していくために次の三つのことが必要であると指摘しています。

(1)評価の正確性・客観性の確保:同制度が社会での信頼を得るためには、同制度により高い評価を得た企業が、経済・環境・社会の面で実際に高い実績 を上げていく必要があります。そのためには、同社で蓄積してきた長期融資 のノウハウを活用して客観的な評価を行うことが必要です。

(2)業種間の公平性の確保:業種別の評価基準をつくるにあたり、業種によって評価に厳しさの差がでないように最大限配慮することが必要です。

(3)審査の効率性の向上:環境報告書を発行していない企業にも門戸を開いており、評価に多くの時間がかかる場合があります。また報告書を発行してい ても、127問の質問のうち30-40問程度は直接聞かないと把握できない事項が あります。できるだけ多くの企業に審査を受けてもらうためにも、効率的で 企業サイドの負荷が過大にならないように審査を行っていく方法を確立する ことが必要です。

積極的なアプローチその2 CDMを活用したカーボンファンドの設立

また、同行はまもなく発効が見込まれる京都議定書に掲げられた温室効果ガス排出削減目標の達成を支援するために、京都メカニズムを活用しクレジット(排出削減量)の取得を行うファンドへの出資制度「京都メカニズム活用事業促進制度」を創出しました。
http://www.japanfs.org/db/293-j

これは、先進国が開発途上国において温室効果ガス排出削減などのプロジェクトを実施し、その結果生じたクレジットをプロジェクト参加者間で分配する京都メカニズムの制度(CDM:Clean Development Mechanism)を活用するものです。まず、DBJをはじめ、日本企業が出資者となってファンドを形成します。

ここに集められた資金を、開発途上国での「再生可能エネルギー供給設備の設置」「省エネ設備の設置」「ガスパイプラインの補修」など、温室効果ガスの削減事業の実施に提供します。その事業により発生した排出削減量をクレジットとしてファンドが獲得し、それを出資者へ分配する、という仕組みです。

現在でも個々の企業が直接開発途上国でのCDMを行うケースがありますが、複数の企業が参加できるファンドをDBJが中心的に運営することにより、企業にとっては参加しやすくなり、またリスクを分散することにより個々の企業が対象にできない小国のプロジェクトにも資金を提供することができます。この制度は、現在出資者を集めている段階で、2004年の秋頃から運営が開始される見通しです。

同制度の設計に関わる饗場崇夫氏(社会環境グループ政策企画部調査役)は、温暖化対策をめぐる日本企業の動きの変化を指摘します。「今年(2004年)は日本政府の温暖化大綱見直しの年です。日本が京都議定書で約束した目標(2008-2012年に1990年比6%の温室効果ガス排出削減)達成に向けて取組みの見直しが進むでしょう。これまでは政府の方針が定まらなければ動きにくいとしていた日本企業も、ここへきてCDMや共同実施といった京都メカニズムを前向きに捉え、積極的に参画していく機運が高まってきました。」

「これまでも日本企業は世界銀行ファンドに参加する17社のうち8社を占めるなど積極的に関わってきましたが、この京都メカニズム活用ファンドの創設により、日本独自でもこれからやっていく準備ができたことになります。今こそ日本が'途上国の先頭'にいると自覚して、温暖化問題の緩和に貢献するときだと私は思っています。」

「"投融資"と"知識・情報"により、持続可能な社会の実現を目指す。」ことをミッションとして掲げる同行の挑戦は、まだまだ続きます。


(スタッフライター 小林一紀)

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