ニュースレター

2004年06月01日

 

日本におけるCSR経営の台頭

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JFS ニュースレター No.21 (2004年5月号)

日本では90年代のなかばからISO14001認証取得を基軸とした環境マネジメントシステム構築が企業でさかんになりました。90年代後半には、「環境経営」という言葉が使われ始め、環境への取り組みを情報開示するための環境報告書が活発に作成されるようになりました。

現在、日本では約600社の企業が環境報告書を発行しています。事業所単位のサイトレポートまで含めると1,000社以上といわれており、世界的に見ても「環境報告書大国」の様相を呈しています。

「環境は持続可能性の母」といわれます。環境がひとつの大きな引き金になって、私たちが現世代だけでなく、次世代、さらに先の世代まで含めて、安心してこの地球上で生活していけるよう、「持続可能な社会の構築」という概念が生まれ、育てていきました。

こうした流れの中で、「環境経営」から「持続可能な経営」へ、「環境報告書」から「持続可能性報告書」への発展・進化がここ数年急速に起きています。

たとえば「持続可能性報告書」については、GRI(Global Reporting Initiative )準拠の報告書を出してい企業は、全世界で約200社あると言われていますが、日本企業が40社あまりを占め、圧倒的なシェアを示していると言われています。「持続可能性報告書」は、持続可能性の要件である「社会」「経済」「環境」というトリプルボトムラインで構成され、従来あまり注目されなかった非財務情報にスポットライトがあたっています。

企業価値を考える際に、単に売り上げや利益の尺度だけでなく、その会社がさまざまなステークホルダーの声を本当によく聞いて、応えているのか、市場だけでなく社会に対して、広い意味で社会的責任を果たしているのか--企業のそのような側面の重要性がより強調されるようになってきました。すなわちCSR(企業の社会的責任)概念の登場です。

CSRは、概念として新しく、また広いため、その定義は地域によっても、社会的な背景や歴史によっても、異なるといわれています。

たとえば欧州では、限られた地域に多彩な国や民族が存在することから、多様性や、雇用、労働者の問題に焦点が当てられ、かつCSRを戦略的に使う方向性が鮮明です。一方、アメリカでは、エンロン、ワールドコムにみられる不正会計の問題から、米国企業改革法が生まれ、コーポレートガバナンスや市場評価の観点からCSRが注目を集めています。

日本におけるCSRはどうでしょうか? 企業の不祥事がここ数年相次いだことから、法令順守、コンプライアンス、企業倫理の面に重点が置かれていることが大きな特徴と考えられます。

会員企業の数々の不祥事を目の当たりにしたこともあり、経団連は「信頼の回復」をひとつのテーマとして、「経団連企業行動憲章」を2002年に改定しました。http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/cgcb/charter.html

また経団連と並ぶ経済団体である経済同友会は、2003年に発行した「日本企業のCSR:現状と課題-自己評価レポート2003」の中で、「企業と社会との相乗発展のメカニズムを築くことにより、企業競争力の強化とよりよい社会の両立を実現しようという積極的な観点」と、CSRを定義付けています。
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2003/040116a.html

CSRの推進部署を作る企業も相次ぎ、たとえば環境経営で名高いリコーはCSR企業憲章を日本ではじめて制定しました。
http://www.ricoh.co.jp/csr/foundation/charter.html

「誠実な企業活動」にはじまり、「環境との調和」、「人間尊重」、「社会との調和」の4章、11の項目で構成されています。また、2003年1月1日付でCSR室をつくりました。

CSRの動きを後押しするのがSRI(社会責任投資)です。これは社会責任を履行している企業を積極的に支援しようという投資の一形態で、日本では1999年にSRIの一種であるエコファンドが相次いで設定されました。

2003年末時点で、日本の合計16のSRIファンドを合計したSRI投資信託の純資産残高は約800-900億円。これは日本の投資信託総資産の0.3%に過ぎず、機関投資家の運用分を含めても1,000億円弱の規模です。これはSRIの進んでいる欧米に比べると、大変に小さな規模となっています。

日本総合研究所の「わが国企業のCSR経営の動向調査」によれば、日本企業は、環境情報の開示の進展に比べると、社会性に関する情報開示は端緒についたばかりで、現状はまだ遅れていることが指摘されています。
http://www.jri.co.jp/thinktank/sohatsu/csr/research/trend/2003.html

しかしながら一方環境省「社会的責任投資に関する日米英3カ国比較調査報告書」によれば、日本において、企業の社会的責任に関心ある個人投資家は全体の85%近くにのぼります。
http://www.env.go.jp/policy/kinyu/rep_h1506/

項目別の関心事のトップ3は、「製品等における顧客への健康、安全性配慮」、「環境問題への対応」、「消費者保護への配慮」となっています。SRIへの関心は広がりつつあります。

規模は小さくても独自の視点、尺度で企業に投資を行なおうとする動きもじょじょに高まってきています。たとえば、モーニングスター社は、社会的責任投資株価指数を独自に定め、そのためのSRIリサーチ専用ソフトウエアとデータベースをセットで提供しています。
http://www.morningstar.co.jp/

一般の人々の関心の高まりと、このような一連の動きによって、新たな投資家への拡大が進めば、それがひとつの後押しとなって、CSRにより真剣に取り組む企業が、日本でも今後さらに増えていくことでしょう。

経済同友会の代表幹事で富士ゼロックス会長の小林陽太郎氏は、「CSRは昔から日本にあった、商い道と同じ性格のもの」と語っています。(日経エコロジー2004年6月号より)

この1-2年、日本では「CSR」をテーマとしたシンポジウムやセミナー、講演会が非常に増えてきています。CSR元年、CSRブーム、という声さえ聞かれます。

CSRは特別新しい概念ではなく、企業が本業を通して社会に対して貢献していく、その原点に立ち返ることだと思われます。その意味でも、CSRをめぐる動きが日本でさまざまに展開されていくようすをこれからもお伝えしていきたいと思っています。

(多田博之)

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