ニュースレター

2004年04月01日

 

「地上資源」を活かす - リサイクル事業に力を入れる素材産業

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JFS ニュースレター No.19 (2004年3月号)


近年、さまざまなリサイクル法の制定、ごみ問題に対する市民の意識の高まり、最終処分場の逼迫などを背景に、素材産業がリサイクル事業に力を入れるようになってきました。素材産業とは、鉄鋼、非鉄金属、化学、窯業・土石、紙・パルプ、繊維、石油・石炭等の産業のことで、建築土木で使う資材や加工組立産業などの他の産業で使用される素原材料を供給します。

物質の循環を考えても、素材の果たす役割はとても重要です。一方、素材産業は不振がつづいている背景もあって、サバイバルをかけてリサイクル事業に乗り出しています。JFS理事でもある千葉商科大学の三橋規宏教授からの情報をもとに、いくつか例を紹介しましょう。

セメント製造業に携わる太平洋セメントは、石灰石や粘土を原料としてセメントを製造するプロセスの中の1450度以上という高温焼成の工程を利用し、地球環境への有害物質を完全に分解し、廃棄物の再資源化を行っています。廃タイヤや廃台になったパチンコ台などを補助燃料として用いるほか、火力発電所からの石炭灰、下水汚泥、都市ゴミ焼却灰など、多岐にわたる廃棄物を原料、燃料として利用しています。

セメント工場は通常、セメントを大量に製造するために作られます。ところが、平成13年に稼働を始めた太平洋セメントの関連会社である市原エコセメントは、都市ゴミの焼却灰や各種汚泥をリサイクルすることを目的に新設されました。セメントの原料である石灰石や粘土、珪石(けいせき)、鉄などは都市ごみに含まれているので、じょうずに組成を組み合わせることで、都市ごみが原料になるのです。このエコセメントはJIS規格に適合した良質なセメントで、これまでのセメントと同じような用途に使用できます。

市原エコセメントで製造されたセメントをすべて販売できても、採算は取れません。千葉県のゴミ焼却灰や汚泥処理で採算を取るのです。都市ゴミを清掃工場で焼却した際に発生する焼却灰や煤じんなどなどの各種廃棄物を主原料に、最小限の天然原料を加えてエコセメントにリサイクルする専用施設なのです。

同社の谷口正次顧問の「セメントを焼くキルンを使っておこなう廃棄物処理がメインの事業です。その副産物としてセメントができますから、これも売りますが」という言葉は、自社の存在理由(ミッション)を大きく転換しつつあることを物語っています。

同和鉱業は、長い間培った精錬技術を用いて、家電や自動車を始め、多くの産業廃棄物から各種の鉱物を抽出するリサイクル事業に力を入れています。秋田県にある小坂精錬所は日本唯一の複雑硫化鉱の精錬所です。この複雑硫化鉱の精錬技術があるからこそ、多種類の金属を取り出すことができるのです。

近くにある家電リサイクル工場で、廃家電からフロンガスやプラスチック類、鉄くずなどが分類・回収されたあとの残りが、小坂精錬所に送られます。他から回収された自動車のシュレッダーダスト等とあわせ、ひとつの入り口に入れます。そこから、金、銀、銅をはじめ、17種類の金属などを回収します。取り出された純度の高い地金は、また製品の原料として使用されます。

製紙業界では、新聞や雑誌などをリサイクルして古紙パルプという再生原料を作るという作業は古くから行われていました。特に製品のパッケージなどに使用する通称"白板紙"と呼ばれている厚手の紙は、目に触れる表面は白くきれいに化粧加工を施されますが、何層にも重ねられた目に触れない中間部分などは、古くから新聞や雑誌の古紙パルプを使用しています。

北越製紙関東工場は、地元の市川市役所から排出される紙資源廃棄物を一手に引き受け、市役所で使用する封筒やノートにリサイクルしています。同工場は千葉県、東京と、埼玉県など、貴重な古紙資源が大量に発生する都会に位置しています。物流的に良い立地を活かし、同工場で生産される白板紙の総生産量1万2000トン/月のほとんどすべてを古紙でまかなっています。

三橋氏は、「北越製紙の工場は、まるで古紙の問屋さんのようだった。大洋セメントの工場には、自動車のタイヤがたくさん積んであり、同和鉱業には様々な電気製品の廃棄物がうずたかく積まれていた。工場を訪れると廃棄物が原料ということがよくわかる」と述べています。

私たちの身の回りの製品には、多くの資源が入っています。たとえば、携帯電話1台100gとすると、1台あたり金0.018g、銀0.189g、銅13.7g、パラジウム0.014gなどが含まれているといいます。日本の金山を1トン掘っても取れる金は50g程度ですが、携帯電話1トンからは、280g取れる計算になりますから、とても効率がよいのです。日本では、年間に3000トンもの携帯電話が廃棄されているといわれますから、840kgもの金が取れる計算になります。

このように、すでに経済の中や身の回りにある資源を「地上資源」と考えることができます。日本は地下資源は貧しい国ですが、地上資源には恵まれた国です。素材産業が培ってきた、資源を回収する技術を廃棄物に用いることで、地下から資源を掘り出したり、木を切ったりしなくても、地上資源を循環させるだけで、日本経済が十分に回るようになる時代が来ることでしょう。

(枝廣淳子)

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