ニュースレター

2004年01月01日

 

日本独自の「ゼロエミッション」の展開

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.16 (2003年12月号)
「ゼロエミッション」は、1992年のリオでの地球環境サミットで採択された行動計画「アジェンダ21」の「持続可能な発展」を実現するための方策として、国連大学が1994年に「ゼロエミッション」研究構想(UNU/ZERI:Zero Emission Research Initiative)として提唱したものです。

基本的な考え方は、異業種産業(企業)の連携によって、廃棄物を出さない経済社会を築こうというものです。この考え方は、食物連鎖によって、ある生物の排出物や死骸は、すべて他の生物に必要な食物となって、むだなくつながっている生態系をモデルとしたもので、「ある産業(企業)から出た廃棄物や副産物を他の産業分野の資源として活用する」新しい産業連鎖を作り出すことで、廃棄物を限りなくゼロに近づけていこうというものです。

もともとゼロエミッションは、このようにさまざまな経済主体が連携して、持続可能な経済社会を作り出すための幅広い理念として、日本にも紹介されましたが、現在では日本独自ともいえるゼロエミッションの取り組みが各地の企業や自治体で広がっています。本来の意味とは違う側面もあるかもしれませんが、ここでは日本で「ゼロエミッション」というスローガンのもと、展開されている動きについてお伝えします。

日本のアマゾン・ドットコムで「ゼロエミッション」で検索すると、「グリーンケミストリーとゼロエミッション」「ゼロエミッション工場の作り方」「トヨタのゼロエミッショへの挑戦」「水産養殖とゼロエミッション」「ゼロエミッション--廃棄物ゼロの循環型まちづくり」「食品のゼロエミッション」「建設ゼロエミッションQ&A」など、現在20冊以上の「ゼロエミッション」を書名とする書籍が見つかります。このように、日本でのゼロエミッションは、あらゆる産業分野で、また、各企業のレベルでも、自治体の地域産業活性化の取り組みとしても使われているアプローチ・手法なのです。

日本では、廃棄物(特に産業廃棄物)の埋め立て地の逼迫が明らかになりはじめたころから、廃棄物処理コストの上昇もあり、多くの工場で埋め立てに回す廃棄物をゼロにしようという「ごみゼロ工場」の取り組みが進みました。

企業や工場によっては、工場から埋め立てに回す廃棄物がゼロになったので「ゼロエミッション工場」だと宣言するところもあります。しかし、単なる「ごみゼロ工場」は、ゼロエミッション工場ではありません。

ごみゼロ工場にするためには、工場内で出る廃棄物を分別し、工場外に持ち出すことになりますが、持ち出された廃棄物がどのように資源として使われているか、自社の工場が廃棄物を資源として出すだけではなく、他社など外部の廃棄物を資源として利用しているのかを産業連鎖群の中で位置づける必要があります。生態系の中の生物と同じで、「自分だけで」はゼロエミッションは成り立ちません。

また、自社からの廃棄物をゼロにするためには、廃棄物を出さない製品設計や製造を進める必要があります。川下で出てくる廃棄物をゼロにするだけではなく、原材料の調達・製品の製造を行う上流でも、エネルギーや資源を有効利用するなど、資源生産性の向上の取り組みもゼロエミッションの活動です。このようにゼロエミッションは、上流から下流まで広くサプライチェーンを通して考え、他社や他の経済主体とのコラボレーションを含むアプローチです。

企業のゼロエミッションの取り組みとして、2002年10月号のニュースレターでご紹介したアサヒビールの例があります。同社は、ビールをはじめとするさまざまな酒類や清涼飲料水等を製造販売している、世界で11番目の規模のビール会社ですが、1998年11月、工場における廃棄物再資源化100%を全工場で達成しました。つまり、生産に伴って排出される廃棄物は、最終処理として埋め立て処分されることなく、すべて再資源化されているのです。

2002年度の環境報告書によると、ビール・発泡酒の生産により、年間約37万トンの副産物・廃棄物が発生。そのうち約80%は、仕込工程で発生するモルトフィード(麦芽の殻皮)で、以下、排水処理で発生する汚泥・スクリーンかすが約10%、びんなどのガラス屑類が約7%と続きます。

生産工程で最も発生量の多いモルトフィードは、主に牛の飼料として再資源化するとともに、さまざまな有効利用の研究をすすめています。また、汚泥、スクリーンかすは有機肥料やたい肥として、ガラス屑などは新しいびんの原料や建材などに再生利用されます。さらに、発酵工程で発生する余剰酵母については、グループ会社のアサヒフードアンドヘルスケアの医薬品や加工食品の原料となり、商品化されています。

同社では、再資源化100%達成のポイントとして、3つの点をあげています。「徹底した分別さえおこなえば、どんな廃棄物でも再資源化が可能である」「分別も仕事の一つであると全従業員が同じ意識で取り組む」「最終的な処分の実態についてしっかりと確認する」(年1回すべての再資源化会社の現地視察を実施し、再資源化の実態を確認している)。

多くの企業の環境報告書に「ゼロエミッションへの取り組み」というページがあることからもわかるように、産業分野を問わず、日本中の企業や工場でゼロエミッションをスローガンとした廃棄物ゼロ・100%の再資源化への取り組みが進められています。

セイコーエプソンでは、ゼロエミッションのレベルを2つ設定して、1997年から段階的に取り組みを進めています。レベル1では事業活動から発生する全ての排出物を再資源化ルートに乗せる排出物の100%再資源化をめざします。排出物を社内で分別(粉砕・圧縮)、排水処理などを施した後、再資源化技術を持った廃棄物中間処理会社、リサイクル業者に委託します。2002年度の実績を見ると、国内ではゼロエミッションレベル1の達成が完了しています。

国外でも、台湾のEpson Industrial (Taiwan)Corp.では、液晶パネルの透明電極のエッチング工程で排出されるリンス水を処理する際に発生する汚泥を、肥料業者に有価で引き取ってもらい、肥料成分としてリサイクル(肥料化)するなど、取り組みを進めています。

また、ゼロエミッションレベル1の達成基準として1日1人当たりの可燃ゴミ排出量を50g以下にすると定め、ビニール類、菓子袋などの可燃ゴミ排出量削減の取り組みを行った結果、2002年度の国内各事業所の1人当たりの可燃ごみ排出量は1日平均37gとなりました。ちなみに1997年度は推定で約500g/日・人でした。

レベル2は、排出物そのものを減らすとともに、より高いレベルの再資源化を行う活動です。製造工程を中心に、プロセス改革・改善や社内再利用・再使用を行い、INPUT(投入資源)を極小化することで、排出物そのものを減らすことに主眼を置き、やむを得ず発生する排出物については、「より高いレベル」の再資源化をめざします。

たとえば、製造工程で使用した処理液の一部を社内で再生再利用したり、排水処理の凝集剤や中和剤へ再利用するなど、社内で再利用可能な物は有効利用し、排出量の削減に取り組んでいます。それ以外にも、直接社内で再利用できない場合は外部業者で再生し、使用可能な再生品は購入する取り組みも進めています。

一度業者に搬出した排出物は、いったん「排出量」として数えられますが、その排出物による再生品を再び購入することも「排出物の削減施策」であると考えています。2002年度は、約650トンの溶剤類を再生業者に搬出し、これらを再生し作られた再生品約90トンを購入、使用しました。

同社では、「2003年度までに、国内事業所の廃棄物・再資源化物の総排出量を1997年度レベル(14,000トン)に抑制する」という目標を掲げています。レベル1の活動の拡充と合わせ、レベル2の活動を推進し、排出物を極小化する技術・ノウハウの確立を進めているところです。

また、工業団地でのゼロエミッションの取り組みの先進事例として、山梨県の国母工業団地(24社)があります。山梨県内にはもともと産業廃棄物の最終処分場がなく、他県に依存している状況だったため、このままでは将来、生産活動に支障が出るのではないかという危機感から、1992年に同工業団地内の企業が、ゼロエミッション活動の推進母体となる「産業廃棄物研究会」を立ち上げました。

各企業が、廃棄物の量・費用の実態データを毎年提出することで、この研究会で実態を把握し、以下の4つの基本的考えに沿って取り組みを進めています。
(1)各社が自ら廃棄物を削減する(ISO14001の取得と連動)
(2)削減しても発生する廃棄物は、共同回収を行い、再利用・再資源化を図る
(3)再利用・再資源化ができない廃棄物は、中和等の中間処理などによって減量化する
(4)再利用・再資源化は団地内での循環が重要であると認識し、循環型リサイクルシステムを構築する

具体的には、各社に共通しておりまた取り組みやすい紙類を23社で集団回収をし、再生トイレットペーパーにリサイクルしたものを各社が購入するという循環を作りました。また、廃プラや木くずを集団回収してRDF化し、セメント工場の燃料として提供。社員食堂の生ごみを集団回収して、コンポスト化し、地元の農家で肥料として使ってもらって、その有機農産物を各社が購入。集団回収した古紙をパルプモールド製品にするプラントを古紙再生業者が設置して、できた再生製品を梱包剤・緩衝剤として各社が利用するなどの取り組みを段階的に進めてきました。

各ステップごとに、自分たちのところから出る廃棄物を資源化して、自分たちのところに戻して使うという循環システムを作っていることがわかります。このような取り組みによって、廃棄物処理費用などの削減が進み、活動継続の原動力となっているということです。

ゼロエミッション推進をはかる国の施策もたくさんあります。1996年、通産省がはじめた「エコタウン構想」、環境庁の外郭団体・環境事業団による「ゼロエミッション工業団地」、建設省「ゼロエミッション道路」、運輸省(以上いずれも当時)「臨海部リサイクル・コンビナート構想研究」などです。

この中でも、「エコタウン事業」(省庁再編によって、廃棄物行政が環境省へ移管されたため、経済産業省と環境省の共同承認の形になっている)を発表し、ゼロエミッションへの支援制度を設けたことが、日本にゼロエミッション活動が広がる大きな追い風になりました。

「エコタウン事業」は、都道府県または政令指定都市がエコタウンプランを作成し、それが承認を受けると、プランに基づいて実施される中核的事業について支援が受けられるしくみ。これまで10を超える地域が承認を受けています。自治体での積極的なゼロエミッションへの動きの背景には、環境問題に対する関心の高まりのほか、切実なごみ問題(ダイオキシン問題などによる市民の関心の高まりから、新たな産業廃棄物処理場の立地がますます難しくなっている)、地域経済の活性化などがあります。

また、国連大学を母体とした、より持続可能な産業社会システムを実現するための組織として、ゼロエミッションフォーラムが立ち上げられています。
http://www.unu.edu/zef/index_j.html

このゼロエミッションフォーラムから出ている「ゼロエミッションマニュアル〈Ver.1〉--ゼロエミッション型地域社会の形成のために」(海象社)というブックレットは、実際にゼロエミッションを進めるための手引きとして作られたもので、英語版も近々完成・公開される予定です。そのときには、またお知らせしたいと思います。

English  

 


 

このページの先頭へ