ニュースレター

2003年10月01日

 

「地球につき、取り扱い注意」 - カタログハウス

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JFS ニュースレター No.13 (2003年9月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第4回
http://www.cataloghouse.co.jp/

通信販売は、ここ20数年間に急成長をとげ、日本では2002年度の売上が2兆6300億円を超えました。持続可能な社会を考える時、これまでのショッピングカタログから想像するのはなんでしょう。無料で送付され処理に困る大量のカタログ、消費意欲をあおる商品写真。それは環境に配慮した消費とは、ほど遠いものに思えます。

ただ、通信販売はメーカーとは違い、製品に与えられる影響が少ないのでしょうか。カタログを古紙100%や非木材紙にしたり、インクを植物性にしたりするといったことを超えて、通信販売会社は持続可能な社会に向けてどんな貢献をすることができるのでしょうか?

この問いに「地球につき、取り扱い注意」というユニークなスローガンを掲げて正面から挑戦しているのが、株式会社カタログハウスという日本企業です。今月号のニュースレターでは、同社の思想と活動についてご紹介したいと思います。

同社は、1976年に創業し、現在390名ほどのスタッフで2002年度には国内で344億円の売上をあげている通信販売・出版社です。同社のカタログ『通販生活』(180円、年四回発行)や『ピカイチ辞典』(580円、年一回発行)は、購読は有料にも関わらず、それぞれ約150万部、約195万部という発行部数を誇っています(最も部数の多い総合月刊誌が65万部ほどであることから、これがいかに驚異的な数字であるかおわかりになるでしょう)。

誌面のほぼ半分を独自取材のエスプリの効いた社会記事で占め、これまでもたびたび、「戦争の放棄」をうたった日本憲法第九条や、日本企業による東南アジアでのダム開発、北朝鮮への食料支援をめぐる問題など、社会をめぐる課題についてジャーナリスティックに取りあげ、社会的論争に火をつけてきました。小売りカタログなのに、ジャーナリズムの記事で読ませる。読者に「読ませる」技術において卓越した同社はこれを「小売ジャーナリズム」と呼び、業界を超えて独自のブランドを確立しています。

環境問題の文脈においても、現在の消費社会が抱える問題と自社との関わりについて根本をみつめ、正面から挑んできました。その企業思想には、次のように述べられています。

「消費欲望刺激システムとして機能してきた通信販売は、いま、大きな岐路に立たされている」「私たちは、地球という環境と資源を商品に替えて消費している、地球資源消費者なのだ」「現代消費社会がかかえこんでいる地球とビジネスの共生という難問を、もっとも先鋭に露出させているのが、通信販売なのだ」。

これからは、「「ビジネス満足」と「地球満足」の両軸に足をかけてふんばらないと仕事ができない時代だ。」しかし考えてみれば、「大量の地球資源消費者に一斉にインフォーメーションできるお店(カタログ)を持っていることで、通信販売は他の小売り形態よりも「地球満足」をアピールしやすい、いや、しなければならない業態なのだ」。

このような問いと発見を踏まえて、同社は自社の企業姿勢を次のような「商品憲法」にまとめました。

第一条 できるだけ、「地球と生物に迷惑をかけない商品」を販売していく。
第二条 できるだけ、「永持ちする商品」「いつでも修理できる商品」を販売していく。
第三条 できるだけ、商品を永く使用してもらうために、「使用しなくなった商品」は第二次所有者にバトンタッチしていただく。
第四条 できるだけ、「寿命がつきた商品」は回収して再資源化していく。
第五条 できるだけ、「ゴミとCO2を出さない会社」にしていく。
第九条 できるだけ、核ミサイル、原子力潜水艦、戦闘機、戦車、大砲、銃器のたぐいは販売しない。

このなかで、第一条「商品販売の基準」と、第二条から第四条にかけて述べている「永く使用していく」ことについて、詳しく活動を見てみましょう。

第一条で同社は、商品に関して「疑わしきは販売せず」という基本的立場を示しています。具体的には、ダイオキシン、環境ホルモン、代替フロン、原産地の不明な木製品、遺伝子組替食品など、商品選択基準を詳細に示し「こんな商品は売りません」ということを明確にしています。

ここで特筆すべきは、「様々な基準が法律や規制になるのを待たずに自主基準を設定し、商品供給先であるメーカーや商社に理解を求め要求していく」という姿勢です。これまでも、南洋材の使用禁止、家電など使い終わった商品の回収と再生、冷蔵庫の断熱材フロンの回収無害化、ホルムアルデヒド放散量など、様々な項目について、法律化に先駆けての対応をメーカーや処理業者と協力して行ってきました。同時に課題として、まだ対策ができていない商品として電磁波を出す商品、鉛はんだ使用商品、発展途上国の違法児童労働による商品などをあげ、今後の課題として認識しています。

そして第二条から第四条にかけて、「永く使っていただく」「再利用する」「最資源化」するということをうたっています。同社は、「永く使って頂く」ことを「販売後の顧客満足」につなげるべく、次のような仕組みをつくっています。

購入者一人ひとりに満足度アンケートを返送していただき、満足度の高い商品は何年も長期にわたって販売していく。みだりにモデルチェンジにはとびつかない。

永く使っていただくために、お手入れや修理に関するメンテナンス通信を販売後一年目の段階で購入者全員に出す。

販売した商品については、メーカーさんの無料保証期間が過ぎてもつねに有料修理するセクションとしてのもったいない課。そのために、長期にわたる修理用部品保有期間をメーカーさんにお願いする。

(再利用に関しては、使い終わった中古品を買い取り1年間の保証をつけて再度販売する中古店「温故知品」で行っています。)

しかし、このようにして法律になるまえから積極的に独自基準をうちだしていくことは、情報が伝わらなければ業界や供給業者、また場合によっては消費者からの反発を受けることと裏合わせでもあります。同社はこれに対し、徹底した情報開示政策を進めることにより対応しています。2003年度より、通販生活の定期購読者から、カタログに載せてある商品ごとの環境情報(主要部材や添加物、CO2排出量、生産地など)よりさらに詳しい環境情報を知りたいという要望があった場合、同社は、把握している限りの情報および証明書類をすべて公開することにしました。

たとえば商品を買うかどうか決める際に、「ホルムアルデヒドの測定試験データと試験方法が知りたい」「食品の農薬データ、使用農薬名、使用回数を知りたい」「工場排水に関する調査書類(あるいは責任者提出書類)を見せてほしい」といった要望をすれば、(「洗剤」の成分配合率やプラスチックの添加剤など製品が模倣される心配があるためメーカーから非公開を指定されているデータを除いて)情報を得ることができます。仮に公開できない場合には「なぜ公開できないか」という理由を知ることができます。

そして、同社が毎年発行する「商品憲法」の冊子は、こうした年間の環境活動の結果と今後の方向性を示す環境報告書として発行され、『通販生活』の春号にあわせて150万部配付されます。この冊子を読めば読者は、それがたいていの環境報告書と違い、卓越した技術によって、カタログ同様読者に楽しく読んでいただく仕上がりになっていることに気づくでしょう。「地球につき、取り扱い注意」というユニークな企業思想と、法律に前倒しして実施する独自基準、そして言葉による卓越したコミュニケーション力によって、同社は、「地球資源消費者にインフォーメーションする」先駆者となっているのです。

(小林一紀)

 

 


 

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