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地域の力を引き出し都市とつなげる

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第2期・第2回講義録

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曽根原久司(そねはら ひさし)
NPOえがおつなげて代表理事、山梨大学客員准教授
フリーター、ミュージシャンを経て、経営コンサルタントの道へ。銀行などの経営指導を通して日本の未来に危機を感じ、その救済モデルを創造すべく、東京から山梨の農山村地域へと移住。林業・農業をしながら「村・人・時代づくり」をコンセプトに都市農村交流の実現を目指すNPO活動を展開。関東ツーリズム大学事務局長、NPO南アルプス山の学校理事長、NPOバイオマス産業社会ネットワーク理事も務める。

◆講義録

1995年、それまで縁もゆかりもない山梨県に移り、土地を買って家を建て、新しい生活を始めた。首都圏から車で2時間ほどと、日帰りもできる距離なので、農村と都市の交流を通じた都市農村共生型の社会づくりという活動にふさわしいと考えてのことだ。2001年、「えがおつなげて」というNPOを立ち上げ、農村地域の活性化に取り組んできた。今日はその経験をお伝えしたいと思う。

「限界集落」を舞台に活動開始

活動拠点である山梨県北杜市は、長野県境に位置し、3年前に周辺の過疎の町や村が合併してできた市だ。北杜市に増富という限界集落地域がある。限界集落とは、過疎化などで人口の半分を65歳以上の高齢者が占める集落のことだ。2006年の調査によると、日本の農村の4.2%が限界集落だという。増富のデータを見ると、2003年の段階で、65歳以上の人が占める割合が58.4%。昭和30年代には220名が通っていた中学校は、30年間に8名に激減し4年前に廃校になった。

住人が高齢化すれば、農地があっても耕作できなくなる。この地域の耕作放棄率は63.2%、農地の3分の2が全く使われていない状態だ。各地に今、こうした農村がとても増えていており、ある意味で増富は日本の農村の「トップランナー」といっていい。恐らく10年後には、日本中でほとんどの農村がこういう状況になる可能性がある。

こうした地域をなんとか活性化できないだろうかと考え、その手段の一つとして農村と都市の交流を進めている。もしここを活性化できれば、日本中の限界集落地域のモデルになるのではないかと、今いろいろな実験をしているところだ。

都市住民から見た農村のニーズ

この地域で行っている活動の柱は次の5つだ。

  1. 農村ボランティアによる農地開墾、農業経営
  2. 地域との連携によるグリーン・ツーリズム
  3. 企業との連携による農村の仕事づくり
  4. 大学との連携による自然エネルギー研究開発
  5. 農村の伝統文化を活かした食育体験

こうした活動を始めるにあたり、まずは遊休農地を開墾しなくてはならない。農村ボランティアという制度をつくり、都市の若者に参加してもらって開墾活動を行った。毎年、延べ500人ぐらい参加してくれたおかげで、3年間で3ヘクタール、東京ドーム球場3つ分が人力で開墾できた。現在はそこで、環境保全型の完全無農薬の有機農業でさまざまな作物を栽培している。この作物はおかげさまでたいへん好評をいただき、3ヘクタール分、すべて売り先が決まっている。

農村ボランティア制度をつくろうという企画を立てた当初、果たして人が来てくれるのか不安があった。ところが実際には、予想を大きく超える人数が集まり驚いたものだ。何の観光地でもないところに来るということは、農村に大きなニーズがあるということだと思う。

都市から見た、農村へのニーズとしては、1)食と農、2)環境教育、自然体験、3)田舎暮らし、スローライフ、4)健康、癒し、5)文化、アート、という5つの要素が大きくなってきていると感じる。こうしたものがある農村コミュニティの文化の中に、人と人とのつながりを求めようとしているという人が都市には増えているのではないか。

地域の資源を活用する仕組み

農地に限らず、ここ山梨は非常に資源が豊富なところだ。ただし、それを十分に活用する仕組みがないために、資源がピタリと動かない状況になっている。

たとえば森林。足元の森林バイオマス資源(生物資源)について山梨大学で調査した結果、膨大な賦存量があることが分かった。数十年間ほとんど使っていないため、どんどん蓄積されている。しかも補助金のおかげで、毎年、間伐事業を行っているのだが、間伐財はほとんど活用されていない。都市部では健康志向のせいか、国産材のニーズが増えているにもかかわらず、消費者まで届く仕組みがないのだ。川上から川下の産業のループの輪が失われているからだ。それをもう一度つないでやらないと産業化にならない。そこに都会の建築家なども協力してもらい、小さいループをつくり始めている。

森林は木材としてだけでなく、バイオマス発電という形で熱利用にも活用できる。地域に15℃の鉱泉が出るのだが、お湯を沸かすエネルギーにバイオマスを活用したビジネスモデルをつくることで、灯油の値段高騰で逼迫していた経営を立て直すことができそうだ。

豊かな森林は豊富な水資源の源でもある。山梨県のミネラルウォーターの全国シェアは50%と圧倒的なシェアを誇る。

また、山梨県は太陽光の日照時間が全国第一位と、自然エネルギー資源も非常に豊富だということが分かってきた。つまり太陽光発電に非常に有利ということになる。今はまだ有効活用されていないが、ゆくゆくは、こうした自然エネルギー資源を活用して、地域のエネルギー自給を目指そうというプロジェクトを東京農工大学と行っている。

新たなスキームで「仕事」をつくる

農村を根本から再生するためには、「営み」の再生をしなくてはいけない。簡単に言えば仕事をつくらなければいけない。農村が衰退した理由は、農業、林業といった産業がなくなったからだ。これをもう一度再生しないと、いくらムードだけで盛り上がっても継続できない。せっかく田舎志向の人が増えても、仕事がなければ暮らせない。観光で終わってしまう。そこで仕事興しということを重要視している。

たとえば、「企業の畑」と呼んでいる事業スキームがある。いきなり見ず知らずの企業が行っても農地は貸してもらえない。そこで農家からは私たちのNPOが農地を借り、それを企業が活用して、人材研修などの目的も兼ねて農業という生産行為に入っていただいている。もちろん、常日ごろの栽培管理はできないため、通常管理は私たちが行っている。東京のある洋菓子会社では、かなり有名な洋菓子店のパテシエさんたちが自家農園をつくっている。農園を開拓し、お菓子の材料となるカボチャとかさつまいもをつくっている。

課題はコーディネーターの育成

これまでの活動でさまざまな効果が上がってきているが、それを5つの視点でまとめるとこうなる。

1.農村地域

  • 遊休農地解消、森林保全などが進む。
  • 交流によって過疎の地域が元気になる。
  • 地域の仕事が生まれてくる。定住化も始まる。

2.行政
  • 農村の政策課題が解決される可能性が大きい。
  • 住民のまちづくりの参画へのきっかけとなる。

3.企業
  • 社内外に、目に見える形でCSR活動をアピールできる。
  • 企業イメージが向上する。
  • 社員研修効果(環境意識向上、チームワークの醸成、社員の視野が広くなる、いきいきしてくる等)
  • 新たなビジネス展開の可能性が芽生える。

4.大学など
  • 研究の成果を実際にフィールドで検証することができる。
  • 学生が元気になる。大学としての差別化ができる。

5.都市住民
  • 元気になる。田舎暮らしへの道筋ができる。新規就農できる。
  • 子どもの体験学習、環境教育。病気が癒される、などなど。

こうした成果の一方で、今の段階で最大の課題は人材だ。さまざまな主体の連携を調整する、事業の企画運営ができるコーディネーターの育成が急務になっている。

農村はガタガタになる一方で、都市側では住民も企業も大学も農村志向が非常に強くなっている。ところが、両者のニーズが合っていても、農村側は高齢者ばかりで、間に立つコーディネーターがいないとコミュニケーションもままならないのが現状だ。私は両者をいろいろな形でつないで事業設計しているが、要するにコーディネーターの役割を担っているのだろうと思う。これまでの7年間、つなぐことでこれだけ新しい動きをつくってこられたのだから、コーディネーターが増えれば、都市農村交流はもっと活発にできるだろう。

ここでいうコーディネーターのスキルとして、ひとつには農村現場での経験と知識がある。知識だけでなく経験が大切だ。たとえば米づくりについて何も知らないとか、広葉樹と針葉樹を見て区別がつかないようでは、事業のプラニングができない。最低限の経験はきちんと身につけなくてはいけない。

そのほかには、農村の資源に対する市場の動向もきちんととらえることや、生産から流通・消費にいたる経営的なマネジメントの力、そして何よりコミュニケーション力が求められる。「お互いさま」という価値観、共同体という意識が残る農村部と、どちらかというと個人主義が中心の都市部では、価値観が大きく異なる。それを結びつけるコミュニケーションが必要になる。

こういったスキルを学んでもらうため、「えがおの学校」と称した研修事業を行い、多くの人に参加していただいている。

「評論家」ではなく、まず始めること

これからの時代、「評論家」のままでいたら、10年、20年たったときに足元をすくわれる状況になるのではないか。小さなことでいいから、まず第一歩を始めるのが非常に重要だろうと思う。「好きこそものの上手なれ」だ。最初は無理しないで好きなことをやればいい。

つくづく感じるのは、農村は今、都市の経済も必要としているということ。一方で都市では、農村の「命」を必要としているのではないだろうか。自然体験キャンプなどをやるとよく分かるが、都会の子どもたちの生命力が弱くなっていて、将来大丈夫かなと心配になる。企業社会の中にも、ストレスでうつ病になる人が増えたりと、やはり生命力が非常に弱くなっている。それを農村で取り戻そうと言いたい。ある意味では、都市の経済と農村の「命のバーター契約」をして、両者が豊かに暮らせる社会をつくっていくのがいいと思う。

この先、海外との資源のやりとりの環境がさらに変化し、恐らく2015年ぐらいには、かなり悪い影響が出てくるだろうと思う。経済構造にしても、ライフスタイルにしても、たとえば格差拡大といった形で、既にその兆候が顕在化しつつある。今後さらに、都市のスラム化といったひどい状況にもなりかねないと心配している。こういう状況の突破口としても、都市と農村の交流は非常に有効だと考え、今後も活動を続けていきたいと考えている。

◆配布資料

(PDFファイル:1(約4.6MB)2(約4.4MB)3(約2.3MB)


◆次世代へのメッセージ

これからの時代、「評論家」のままでいたら、10年、20年たったときに足元をすくわれかねません。小さなことでいいから、まず第一歩を始めることが大切。「好きこそものの上手なれ」というように、最初は無理しないで好きなことから、ともかくアクションを起こしてください。

◆受講生の講義レポートから

「世界の人口増を考えると、日本の食糧自給率を引き上げることは絶対に必要だし、農地のCO2吸収も有効なので、農地の再生がこれからの日本にとって大きな問題だと思う。私も真剣に考えていこうと思いました」

「これまで客観的に(他人事として)見ていた、石油、エネルギー問題を、改めて自分事のように感じることができました。分かりやすいデータで、自分の生活に置き換えて考えることができたからだと思います」

「バイタリティあふれるお話しに、ただ圧倒されるばかりでした。自分で動かなければ何も変わらない。逆に動き出せば何か変革が起こせるのだ、ということを改めて実感しました」


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