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『もったいない』を生かすビジネス

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第1期・第11回講義録

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竹本徳子(たけもと のりこ)
株式会社カタログハウス 取締役エコひいき事業部長
早稲田大学教育学部卒業。セントキャサリンズカレッジ神戸校(オックスフォード大学)ディプロマ取得(1992年)。(株)東京こども教育センター(カタログハウス前身)にて、幼児教材の編集、DM企画制作、媒体担当を経た後、1996年取締役就任。2000年より環境マネージメントを担当し、小売業における環境関連業務に従事。再生可能エネルギー推進支援、環境配慮型製品の開発支援など、持続可能な消費を目指す大学やNPOとの協働、企業市民としてのCSR実践にかかわる。

◆講義録

「もったいない」とビジネスがどうつながるのかと不思議に思う人もあるかもしれないが、本来、ビジネスでは、ある意味「もったいない」ことをしている余裕はない。ともかく経費を削減し、業績が下がれば人員削減し、絶対無駄を出すまいとして、一番効率のいい利益の上げ方に英知を絞るのがビジネス。

今日お話しする「もったいない」は、このような企業にとっての「もったいない」ではなく、地球とその住人にとって「もったいない」ことに注目するという意味だ。当社では、メーカーで修理不能となった商品も、できるだけ修理して永く使っていただこうと「もったいない課」という修理工房をつくり、環境への取り組みを行っているが、問題は複雑になってきている。そうしたジレンマを含め、「エコひいき事業部」の取り組みについてお話ししたい。

モノがあふれる中でモノを売るということ

カタログハウスは1976年に創業開始し、今年31年目を迎えた。主な事業は通信販売と出版で、1982年に『通販生活』を創刊。当時は、広告代理店が「もっと使わせろ」「捨てさせろ」「無駄遣いさせろ」などといって、なんとかして要らないものまで買わせて、どんどん浪費させようとしていた時代だ。いまだに「今買うとこれがついてきます」「お得です」と購買欲をあおる売り方もあるが、ああした調子で大量生産、大量消費、大量廃棄を繰り返していたわけだ。

消費が増えれば生産が増え、工場の増加が雇用を促進して貧困がなくなる、という夢のようなシナリオを描いていたのに、実際に増えたのは人とゴミ。そしてなくなったのが資源。さらに格差が増大したというのが20世紀だった。今まさにそのツケが来ているといえるだろう。

自分の生活を見渡してみて、今すぐ欲しいモノがどれだけあるだろうか。ほとんどのモノはもう充足されていないだろうか。街にもネット上にも、いろいろなモノがあふれている中で、私たちはビジネスをしていかなくてはならない。

カタログハウスというのは、『通販生活』というカタログを通してモノを売っている会社だ。通販のカタログは通常、無料配布だが、このカタログは180円払って読んでいただく。書店での販売に加え、有料の会員に対して、この雑誌を送るという仕組みを取っている。単なる商品カタログでなく、お金を払ってでも読みたいと思ってくださる方にご満足いただける、時代に合った上質な情報を提供するのが私たちの使命だ。カタログの半分は読みもの記事で構成されている。今の暮らしを取り巻くさまざまな状況に、不安を覚える読者の琴線に触れる記事とともに、その不安にこたえるような商品と暮らしの提案をしていこうというねらいだ。

「臆病」だから環境に取り組む

環境への取り組みを振り返ると、まず1990年にチェルノブイリの救済キャンペーンに取り組んだ。事故が起こったのは1986年だったが、4年間、私たちがどうやってチェルノブイリに支援できるだろうか考えていた。本当に困っていることは何なのか、どういう支援をすればいいのか。しかも、私たちの会社がではなくて、この救済キャンペーンは読者を巻き込もうとしていたわけなので、支援金の使われ方をきっちりと説明できない限り、やってはいけないことだと思い、その筋道をつくるのにも時間がかかった。

その後、本格的に環境に取り組み始めたのは1997年、京都議定書の年。ちょうど今もそうだが、あの年はメディアが一斉に環境問題を取り上げていた。そこで今なら賛同してくれる人もいるだろうと、さまざまな政策を公表し、取り組みを開始した。

たとえば、カタログに再生紙100%を使用したり、フロン製品の回収・無害化処理を実施。当時はまだ「家電リサイクル法」が施行されていなかったが、法律ができてから取り組んだところで誰も感動してくれない。法制化前にやってこそ意味があるという戦略だ。「もったいない課」ができたのもこの年のことだった。

こうして環境問題に取り組んできたのは、何より私たちが「臆病」だからだ。最先端の社会派雑誌としての評価をいただいていたが、その一方で環境配慮ができていないとなれば叩かれる。環境ホルモンは疑わしいから、経口部分にポリカーボネイトを使うのはやめようとか、ダイオキシンが出るそうだから塩ビやめようとか、そうした対策を先手、先手で予防原則にのっとりやってきた。

私たちのビジネスが今後生き延びていくためには、まず地球満足を満たさないといけない。ジレンマを抱え悩むこともたくさんあるが、環境問題を心配する読者に対して、私たちは襟を正して生きていきたい。ゆえにとても臆病だ。地球の資源を消費している消費者にアピールできる何物かがなければ、本来、企業は持続してはいけないと思っている。

小売りをジャーナリズム化する

こうした会社の方針については、1998年に「地球の取説」としてまとめた。普通の会社でいうと、環境報告書にあたるものだ。2001年以降は「商品憲法」に名前を変えて今に至っている。

第1条 できるだけ、『地球と生物に迷惑をかけない商品』を販売していく。
第2条 できるだけ、『永持ちする商品』『いつでも修理できる商品』を販売していく。
第3条 できるだけ、商品を永く使用してもらうために、『使用しなくなった商品』は第二次所有者にバトンタッチしていただく。
第4条 できるだけ、『寿命がつきた商品』は回収して再資源化していく。
第5条 できるだけ、『ゴミとCO2を出さない』会社にしていく。
第6条 できるだけ、地産地消、自給自足。『メイド・イン・ジャパン品』の販売を増やしていく。
第9条 できるだけ、核ミサイル、原子力潜水艦、戦闘機、戦車、大砲、銃器のたぐいは販売しない。
7条、8条が抜けているのは、提案があれば足せるようにという意味もあるが、実は9条を書きたいという思いが先にある。ビジネスの世界では、政治と宗教の話を持ち込まないというのが鉄則だが、カタログハウスはユニークな会社で、あえてそれを破り、はっきりと護憲派だと表明している。普通の会社では考えられないだろうが、9条を守るということにも命がけである。なぜか。やはり戦争は一番の環境破壊だからだ。『通販生活』は、それについて無関心でいいのかということを、きっちり語りかけていく、主張する雑誌でありたいという表明ともいえる。

商品憲法にあるような方針を貫くには、あまり多くの品物を扱うことはできない。多品目を扱うと、細かく一点一点環境調査することもできなくなってしまう。そうかといって、少品目を少量販売していてはビジネスにならないため、少品目を多く販売することを目指している。

そのためには、なぜその商品がいいのかということを徹底的に、ジャーナリスティックに調べ上げていくというのが、私たちの仕事のやり方だ。取り扱う商品を選ぶとき、売れそうな商品を探してくるわけではなく、最初に企画ありき。たとえば「もったいない」という企画にしようとか、「メイド・イン・ジャパンの実践」という企画を立て、それに合うモノを探してくる。カタログの見出しに大きく書ける企画が先にあり、それに合わせた今日的な商品を売っていくというやり方だ。これを「売りたい魂」と呼び、コミュニケーションの根本にこれを置いている。

私たちはモノだけを売っているのではなく、商品情報と一緒にモノを売っている。情報を売っているといってもいい。小売りのジャーナリズム化への挑戦だ。

「もったいない」の難しさ

私たちが扱う商品は、遮熱のカーテンという新しい技術を用いた商品から、ゴザなど、昔ながらのローテク商品も多くある。いずれもエネルギーに頼って省エネするのではなく、なるべく抑制の利いた気持ちのいい暮らしを提案するのがカタログハウスの切り口。メーカーさんには、環境性はもちろん、性能から耐久性、すべてを「商品憲法」にのっとって、競合品と比較して優位のモノを持ってきてくださいとお願いし、私たちも常にそういうモノを探している。

年に一度「読者が選んだ暮しの道具ベスト100」を発表しているが、実は売れ筋はあまり変わっていない。1位は1992年以来ずっと「メディカル枕」。「デロンギヒーター」も必ず5位か6位に入っている。長持ちする商品や、「少し値が張るけど、これはいい」と消費者が思うモノは、着実に間違いなく売れ続けている。

メーカーさんには「モデルチェンジしないでください」とお願いしている。しょっちゅうモデルチェンジされると、部品の供給が大変で、修理が利かなくなるからだ。

商品憲法の中でも、できるだけ修理をして永く使っていただこうという条文を盛り込んでいるが、あまりに「もったいない」が行き過ぎると怖いこともある。たとえば、いくら永くとはいっても、30年前の扇風機で事故が起きても責任の取りようがない。家電には経年劣化という寿命がある。古い商品を使っていると、家のコンセントの問題で火が出ることもある。

現在は安心して永く使っていただくために、もったいない課が工具までつくって対応しているが、果たしてそこまでするべきなのかと、今また大きな岐路に立たされている。危険がある可能性があるものは、残念だが「部品がないから修理はいたしません」と言ったほうがいいのかもしれない。今のところ、製造後10年経ったものは、引き取ってもリユースショップで販売しないことにしている。

商品の寿命が尽きた段階で回収し再資源化するという事業もやっているが、戻していただくには運送のコストとエネルギーをかけなければならず、本当に環境にいいんだろうかと、これも常に考えていかなければならないジレンマだ。冒頭で言った「もったいない」の難しさはこういうところにある。

消費者・市民に何ができるか

皆さんが一番意思表示できるのは、モノを買わないこと。ゴミを分別するよりも、そもそもゴミになるものを買わないほうがいい。それをどうにかして買わせようというのが私たちだ。だからこそ、うちのモノに買い替えてくだされば、その分地球が良くなる、そういうモノを開発して売っていくことを心がけている。また環境セミナーや、石油や原発に頼らない市民風車の出資支援などを通して、読者への啓発も大事だと思っている。

地球温暖化防止のためにバイオエタノールが注目を浴びる一方、その原料であるトウモロコシなどの食品価格高騰が問題となっている。また、非石油系界面活性剤入り洗剤は環境に優しいと一見思えるが、実は生産地の途上国で原料となるパームヤシのプランテーションのために生態系が壊されているなど、環境問題を解決しようとすると、こちらを立てればあちらが立たないというジレンマにぶつかる。問題を地球全体のレベルでとらえないと、私たちビジネスも生き残れないし、皆さんも生き残れないというわけだ。

では何をすればいいのか。私からの提案は、万年思考停止をやめようということ。すでに一歩踏み出している人も多いと思うが、そこから先、政府や自治体、企業やメディアに何を働きかけていくのか。どういう働きかけをしたら一番力になるのか。これを考えないといけない。一人ひとりが、自分が今のこの生活をしている中で、まずいなと思うことがあれば、それを大きな声に集約させること、そういうことが大切だろうと思っている。

◆私が考える「サステナブルな社会」

いかなる地域、いかなる時代に生まれようと、ふつうの人が家族や友人、ご近所さんと良好な関係を築き、ふつうに暮らしてふつうに死んでいける社会。自然と生態系の恵みを独り占めして、過剰な蕩尽を図るのが人間の性(サガ)。科学への敬虔な態度、他者への慈愛の心、社会システムへの柔軟な発想、この絶妙なバランスと抑制のきいた「知識人」を育て、リーダーとして選べる社会。

◆次世代へのメッセージ

万年思考停止をやめよう。政府や自治体、企業やメディアに何をどう働きかけていけば、サステナブルな方向へ舵をきる力になるのか、子孫の生存をかけてこれを考えないといけない。 一人ひとりが、自分が今この生活をしている中で、まずいと思うことを大きな声に集約させていく、あきらめずに、しつこく、そういうことが大切になると思います。

◆受講生の講義レポートから

「消費者や行政が怖くて環境対策を打ってきたと聞いて、逆に消費者の声の力の強さを知ることができました」

「前回の講義と共通するのは、消費者のニーズ(今回でいえば環境問題に対する不安)を追求していった結果が今のビジネスになっているという点だと感じました。環境やサステナビリティに関する問題は、白黒つけられないことも多いからこそ、みんなが真剣に考えなければならないのだと、改めて思います」

「『市民が環境にいいことをしたいなら、何も買わないこと。そこを何とか買わせようとするのが私たちの仕事』という言葉が強く印象に残りました。ビジネスと環境の両立というジレンマがよく表れていて、今後いろいろことを考える上で、いい切り口になりそうです」


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