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再生可能エネルギーの飛躍的拡大を狙った都の挑戦

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第1期・第4回講義録

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谷口信雄(たにぐち のぶお)
東京都環境局総務部企画調整課企画主査

東京都職員として、再生可能エネルギーと家電の省エネ、NGOとの連携を担当。東京の風力発電などに関して企画立案から実施まで携わり、自らNGOとしても活動している。


◆講義録

サステナビリティの課題は何なのか。何よりも、地球温暖化を食い止めることではないか。そのために大きな社会変革が必要だが、残された時間は少ないということを認識することが重要である。今日の結論を先に言ってしまうと、その課題解決のために「もっと政策に関心を持ってほしい」ということと、「もっと社会のしくみづくりにかかわってほしい」ということだ。今の学生は政策にまったく関心がないのではないか。ごみ拾いなど「身の回りでできること」を探そうとする人が圧倒的に多い。社会を変えるには、社会のしくみを変えなくてはいけない。そのために、もっと政策に関心を持ち、そのつくり方を学んでほしい。

なぜ持続可能性なのか?

現在のサステナビリティに対する考え方は、10年前と比べるとずいぶん変わってきている。何が変わったかというと、持続不可能社会の限界が見えてきたということだ。具体的には、気候変動のリスクが見えてきた。つい先ごろも、世界中の山岳氷河が1980年代の3倍の速さで減少し続けていることが、国連環境計画(UNEP)から発表された。氷河がなくなっていること、しかも加速度的になくなっていることが、科学的に示されてきている。

私たちは、結果を出さなくてはならないリスクに追い込まれている。20年以内に結果を出さなくてはならないとき、ごみを拾っているだけで十分だろうか。持続可能な社会のためには、公平性といった問題も大切だが、人類の生存基盤の地球環境に破綻をきたすようでは公平性も何もない。

地球温暖化防止への日本政府の取り組み

日本政府の取り組みを大きく分けると、技術開発、自主努力の促進、ライフスタイルの転換の3つがある。自主努力の促進には、例えば「経団連自主行動計画」や環境省の「チーム-6%」などがあるが、あくまでも自主性に任せるため、目標が低い上に実効性が担保されていない。

ライフスタイルの転換には、例えば「電気をこまめに消しましょう」という呼びかけや風呂敷の活用などがある。そうした働きかけを日本人は非常に好む傾向があるが、風呂敷を使うことで、どれだけ温暖化防止につながるかという見通しがあるならいいが、手近なものをやって自己満足しているだけという感が否めない。

技術開発は進んでいるが、技術は使って初めて意味があるものだ。サステナビリティへの取り組みが最もうまくいっている国は、必ずしも技術が最も進んでいる国ではない。社会のしくみをうまく使っている。現在の日本の取り組みには、しくみを変えようという方向性は希薄である。

政策形成にあたって

ミニワークショップ 「これから皆さんに、20年後に温暖化が回避される政策をつくっていただきたい。まず1人で考えてください。次に数名のグループで、持ち寄った政策を話し合い、チームとしての合意を形成してもらいます。制限時間内で素早くつくってください。あまり時間をかけていては地球がもちません」各グループからの政策案を出してもらい、挙手による投票の結果、「地下資源の使用の制限、原材料のLCAを商品につける、大規模な経済活動を3年以内に80%に制限」が採用された。なお、限られた時間内に政策案を出せないグループもあった。


短時間で政策を決定するのは大変だったかと思う。合意形成には時間がかかることも学んでほしい。政策の中身が大事なことは言うまでもないが、実世界では限られた時間の中で、合意形成、政策立案をしなければならず、そうした条件の中で出すことにも意味がある。

火災の火が燃え広がる中で、「公平な消火のやり方」や「火の手がここまで及ぶという科学的な根拠はあるのか」などを議論していては手遅れになるのは明らかだろう。温暖化防止の政策を考える際も同じことが言える。あまり時間をかけて対策を練ろうにも、それでは地球がもたないだろう。そうした時間の感覚をしっかり持っていることが大切だ。



グローバルな課題は地方から

東京都では、2020年までに都のエネルギー使用に占める再生可能エネルギーの割合を、20%程度まで高めることを目指している。地球温暖化対策推進法では、地方自治体の役割として、区域の自然的社会的条件に応じて取り組むこと、役所からの温室効果ガス排出を減らし、事業者や住民の排出抑制を推進せよ、といっているが、東京都の目標はそうした範囲を超える別次元のものだ。

温暖化という差し迫る地球規模の危機に対し、どこまでが国の役割で、どこからが地方自治体の役割などと線引きはできない。国が動きにくいなら地方から始めればいいと考えている。こうした動きは海外の各地でも見られ、世界的なトレンドになっているといってもいいかもしれない。

地球温暖化のような大きな問題は、どうしても複数の組織や部署が横断的に取り組まざるを得ないが、国では省庁横断的な取り組みは非常に難しい。省庁横断のパッケージの政策はなかなか出せない。その点、都の場合は効果的な政策ミックスを打ち出しやすい。

東京都の目指すところ

なぜ今、再生可能エネルギーを推進すべきか。省エネが必要なのは言うまでもないが、エネルギーをまったく使わないわけにはいかない。そこで再生エネルギーへのシフトが必要となる。



飛躍的に進めなければならない理由は、1つにはわずかな気温上昇でも生態系や人々の暮らしに大きな影響を与えるためである。脆弱な生態系にはすでに影響が出ている。このまま2度上昇すれば、熱中症の増加や大型台風の頻発など、地球規模での悪影響が拡大し、急激にリスクが高まるとされている。

なんとしてもこの2度を越えないことが必要である。そのためには、2050年の温室効果ガスの排出量を地球全体で90年比50%以下に抑えなければならない。世界人口の20%の先進国が全エネルギーの80%を消費している現状では、途上国の基本的な生活水準を上げるための排出増加は避けられない。それを計算に含めると、先進国は80~90%の削減が求められることになる。

「東京都再生可能エネルギー戦略」では、EUがバックキャスティングの考え方を基に、90年比で60~80%の排出削減目標を定めたことを参考に、危険な気候変動のレベルを回避するため、再生可能エネルギーの割合を20%にするという高い目標を設定した。また、世界の先進国・地域と足並みをそろえ、再生可能エネルギー拡大を目指す世界的な潮流を強化したいと考えている。

目標達成に向けた3つの方向性

東京という大都市の活動を支える工業製品や農水産物は、都外から供給されるものが多いため、そこまで含めて考えると東京の都市活動に起因する二酸化炭素の総量は非常に大きく、その意味で東京は「巨大な消費者」であるといえる。その消費者としての立場を使い、再生エネルギーを買おうという需要を創出することができる。都の需要の大きさを全国の供給拡大に生かすことができるのだ。方向性の1つめは、この需要の創出である。

2つめの方向性は、自然エネルギーとしての特質を生かした利用を進めること、そして3つめには、個人や地域がエネルギーを選択可能にすることである。小規模分散型の再生可能エネルギーは、個人や地域がエネルギーを選択できるというメリットがある。個人や地域が消費者として力を持つことができるし、太陽光発電装置などを備えれば、エネルギーの供給者にもなれる。



都では、それぞれのしくみを1つひとつ広めるのではなく、複数を組み合わせたパッケージにすることで、たとえば1+1+1=5になるような相乗効果を生み出そうと考えている。

利用拡大に向けたしくみづくり

利用拡大のためには、プロジェクトを見せるしくみが必要となるが、どのようなしくみがいいのだろうか。例えば、電力のグリーン購入がある。大規模な都の施設が購入する電気については、5%以上の再生可能エネルギー利用を進めるという制度を2004年に全国に先駆けて導入した。供給者に、5%は再生可能エネルギーにしてほしいと要求するのだ。みんなで取り組めば、RPS法のかかげる小さな目標など一気に飛び越えてしまう。

今後、ほかの地域の自治体や企業にも呼びかけていく予定だ(注)。こういう場合、はじめは個人的なレベルで、それぞれの地域で新たな動きが生まれ、それがやがて国レベルのしくみにまでなるということがある。心ある者が各地の役所に何人かいると、社会のしくみを動かすきっかけになったりする。

高い目標をかかげて社会のしくみを変えるといっても、はじめから受け入れられはずがない。まず実験をし、社会全体の3割に広がったところで義務化する、などの戦略が必要となる。また、そうした取り組みを世界に向けて発信しておくことも重要だ。

こうした高い目標を掲げる取り組みは、実際には非常に困難であるが、東京都には幸い実績がある。大気汚染対策に関して都の独自の取り組みが国レベルに広がった。ディーゼル車の走行規制についても1年で劇的な成果をあげたことがある。そうした経験から、できないことはない、という思いで今取り組んでいる。地球温暖化は私たち人間が引き起こしているものだ。だから私たちが食い止められるはずだ。

社会のしくみづくりとは

私たち世代の課題とは、最低限、次の世代にツケを回さないことだ。このままでは、ひどいツケを回してしまう。一方で時間がない。だからこそ、限られた時間で結果を出せる、実効性のある政策や新たなしくみが必要となる。

実効性のあるしくみや政策をつくるには、いかに「学ぶ」か、そして「考える」ことが重要だ。学ぶとはすなわち「真似ぶ」「まねる」ことである。私たちは難しい課題に挑んでいるのだから、最新のトップレベルの情報が必要になる。世界の最もいい情報を選び、最もふさわしい人から教えを請うことだ。ただし、学んだだけで満足せず行動しなければ意味がない。サステナビリティについては現実をきっちり見据えて行動してほしい。

注)2007年3月23日実施


◆配布資料(PDFファイル 約3,260KB)


◆次の講義とのつながり

私たちは大量のエネルギーを使って、大量のモノをつくりだし、その廃棄にも大量のエネルギーを使っています。エネルギー以外も含めた広い意味での資源が、今の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会で、どのように循環しているか、どこに問題があり、解決の糸口はどこにあるのか、地球規模の視野で見ると、都の取り組みの背景がよく分かると思います。

◆私が考える「サステナブルな社会」

社会の持続可能性が概念として創造されたのは、社会の非持続可能性が発見されたことによります。したがって、持続可能な社会の実現とは、社会を非持続可能にするものを排除・回避するシステムを社会に創り出すことです。私はナチュラルステップの4つのシステム条件とその社会化に注目しています。緊急の地球温暖化による破局的リスクは別ですが・・・。

◆次世代へのメッセージ

今私たちが人類始まって以来の危機に直面していること、その解決に残された時間がまだ20年あることを学んでください。バックキャスティングから考えるその解決のためには、大きな社会変革が求められています。そのためには社会のしくみを変えることが必要です。そしてそのために、もっと政策に興味を持ってほしいと思います。世界中からベストと思えるお手本を選び、学び、実行に移してこそ、私たちが生み出した課題を私たちの手で解決することができるのです。

◆受講生の講義レポートから

「都が再生可能エネルギーの導入に積極的とは驚きです。政治の勉強をしているのに、日ごろは国の政治だけを見ていて、地方自治体が何をしているのか知りませんでした。もっと自治体の政策に関心を持とうと思います。今日の話で、日本や世界の将来に希望が見えました」

「社会のしくみづくりの重要性、学ぶ(真似ぶ)ときには最もいいところから学ぶ必要があるなど、サステナビリティの分野にとどまらず、今後の学生生活の糧になるような話を伺えたと思います」

「学生として何かアクションを起こしたいと思っても、政策は少し遠いものだと感じていました。都の取り組みに勇気付けられ、まずはパブリックコメントに目を通すことから始めたいと思います」


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