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積水化学 自然に学ぶものづくりフォーラム2004 レポート

JFS 星野敬子

2004年10月14日、積水化学工業株式会社京都研究所にて、第2回「積水化学自然に学ぶものづくりフォーラム」が開催されました。大学・研究機関から79名、企業、NGO・一般市民の方が137名と総勢216名が参加し、助成対象となった研究の展示発表の他、参加者同士の活発な交流が行われました。その模様を抜粋してご報告します。

プログラム

基調講演
木内孝氏(NPO法人フューチャー500理事長)

「熱帯雨林が教えてくれるもの -これからの技術・産業・社会-」
神崎亮平氏(東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)

「生物を観る、知る、創る -昆虫の小さな脳を解き明かし、サイボーグ蛾を飛ばす-」ポスターセッション
2003年度助成対象者や名古屋大学21世紀COEプログラムメンバーらの研究を一同に会し、展示発表が行われました。

自然に学ぶ意義とは?--木内孝氏の基調講演から

十数年前、私はボルネオ島のサラワクで重大な気づきを得ました。「熱帯雨林は持続社会を形成している。多様な生物が関わり合い、物質循環に支えられた見事な生態系が保たれているのです」人間が熱帯雨林を伐採し生態系をかく乱している今、「自然がメインシステム、社会・経済はサブシステム」という考え方を提起したい。自然を壊すことはできてもつくることはできない、という基本に立ち帰り、自然界の優れたデザインとメカニズムを謙虚に学ぶことが、持続可能な社会形成に必要です。

フォーラム開催に込められた思い--神崎亮平氏の基調講演から

ただ一方的に、生物に学び、ものをつくるだけでなく、ものづくりを通してさらにその生物を見ることが大切です。つくり上げたものと生物を比較することで、生物をより良く理解できることでしょう。さらに基礎科学と応用科学がフィードバックし合い、「学ぶ」と「つくる」を繰り返すことで、本物の「自然に学ぶものづくり」が実現するのではないでしょうか。この意味で、理学・工学・農学・薬学・医学など様々な分野の研究者が集まるフォーラムは、分野を越えてフィードバックし合える場という意義を持っています。

2003年度助成対象研究--ポスターセッションから

231件の応募から選ばれた13件の助成対象研究をはじめ、合計29件の研究が展示発表されました。どのような自然の知恵に学んだものづくりが研究されているのでしょうか。2003年度助成対象となった研究を2つご紹介します。

1. モルフォチョウに学び、美しく光り輝く基板をつくる
--大阪大学大学院 生命機能研究科 吉岡伸也助手

モルフォチョウは、「世界の昆虫展」などの大きな展覧会に行くと必ず見られる、青く光り輝く美しい蝶です。この色や輝きは、私たちが通常行う色素による着色ではなく、微細なナノ構造がもたらす「構造色」から生み出されることが知られています。この構造色は、既に携帯電話や車の塗装、マニキュアなどの製品に用いられています。1995年には日産自動車、帝人ファイバー、田中貴金属工業の3社がモルフォチョウの構造色を共同研究し、「モルフォテックス」という繊維を開発しました。

このように、構造色は近年身近なものになりつつありますが、吉岡氏らは、まだ実現されていない「モルフォチョウの濡れたようなツヤ」を基板で再現したいと夢を膨らませています。構造色を応用した基板は、有害な染料を使わないエコマテリアル。視覚に関係したあらゆる産業への応用が期待される中、神秘的な発色の秘密を求めて、挑戦が続けられています。

2. ラッカセイに学び、リン資源回収作物をつくる
--名古屋大学大学院 生命農学研究科 矢野勝也助手

DNAやエネルギーのもと(ATP)をつくるリンは、生物に必要不可欠な物質です。私たちはリンを農作物から摂取していますが、そのほとんどが土壌にまかれたリン肥料に由来しています。しかし、実際に農作物に吸収されるリンは、与えられたリン肥料のわずか10%。90%は利用されずに土壌に蓄積しているのです。2050年にはリンの原料であるリン鉱石が枯渇してしまうとの予測もあり、土壌に眠るリン資源を有効活用する技術が求められています。

そうした中、矢野氏らは、土壌に蓄積している有機態のリンを、ラッカセイが効率良く吸収することを発見。根から分泌される「ホスファターゼ」という酵素が、リンを吸収可能なかたちに分解していることを突き止めました。現在、この機能を応用したリン資源回収作物の開発が期待されています。さらにこの技術は、リンの流出が原因で起こるアオコの大量発生という環境問題解決にも貢献するはずです。

フォーラムに参加して

様々な分野で、自然の知恵に学ぶ研究が注目を集めています。今後は、本助成プログラムで知り合った農学と工学の研究者が共同研究を始めた例のように、基礎科学と応用科学の連携による製品開発が期待されます。近い将来、自然に学ぶものづくりは、新しい環境ビジネスモデルになるでしょう。

以上です。

 

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