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第4回インタビュー
インタープリター&環境教育プランナー「風と土の自然学校」主宰 梅崎靖志氏

ここまでのシリーズでは、技術開発に携わる研究者の専門的取り組みを中心に紹介してきました。では、「こうした技術を研究してみたい」と考えた学生や研者は、どこから始めればよいのでしょうか。今号では、ナチュラリスト・環境教育専門家で、「自然に学ぶ」を日々実践している梅崎靖志さんに、どうしたら私たちの日常生活のなかで自然に学ぶ技術のヒントを得ることができるか、お話を伺います。梅崎さんは、身近に発見した「自然のデザインワーク」を、自然体験教育プログラムやメールマガジンで発信されていらっしゃいます。

自然生活をおしゃれに楽しむ暮らしカタログ  http://www.geocities.jp/sustaina2004/
「梅たろうの季節写真館」  http://www.geocities.jp/sustaina2004/umepic/umepic.htm

Q. 梅崎さんは、どのように「自然に学ぶ」を実践されてきたのですか?

高校の頃、自然の中での活動を通じて教育に関わる仕事に就きたいという漠然とした気持ちがあったので、大学は自然のことを学ぶことができる農学部の森林科学科を選びました。学生時代に環境教育と出会い、「やりたいと思っていたのはこれだ!」と強く感じてボランティアとして活動に関わり、卒業後は環境教育を仕事にする機会に恵まれました。環境教育施設のレンジャー(自然解説員)・自然環境調査などを通じて環境教育施設の計画をするプランナーを経て、ホールアース自然学校*で運営を担当する環境省の施設「田貫湖ふれあい自然塾」のコーディネイターをつとめ、自然のメッセージを人の言葉に翻訳して伝えるインタープリターとしても活動しました。2003年に「風と土の自然学校」を立ち上げて、持続可能なライフスタイル(生き方・暮らし方)をテーマにした体験プログラムの提供や人材育成、情報発信などの活動を始めました。自然とつながる暮らし方を自然から学び、人に伝えることが、私のライフワークです。

* 日本では20年前は自然学校の数はほとんどゼロでしたが、1990年代に急成長し、今は1,500ほどあります(環境省2002年度調査より)。ホールアース自然学校は草分け的存在の一つで、1982年に設立され、年間受け入れ人数約60,000人の、日本でも有数の自然学校です。 http://www.wens.gr.jp/

Q. 昨年はじめられたメールマガジンで、「自然のデザインワーク」を取り上げていますね。

メールマガジン「自然生活をおしゃれに楽しむ暮らしカタログ」は、自然の中で働くライターたちが、シンプル・スタイリッシュ・オーガニックといった視点から自然の「旬」の情報を発信するものです。私の担当するのは、「梅たろうの季節写真館」。テーマは「自然のデザインワーク」です。自然の中は、様々なデザインにあふれています。例えば川の流れと枝のつき方、そして私たちの血管の流れは本当によく似ています。こうした自然のデザインに隠された共通点を見出すことで、それを自然生活のデザインに活かしていけるのではないか。そう考え、自然から切り取った旬の写真と気づきをお届けしています。具体的な技術や製品に色や形を応用するところまでいかなくても、そのヒントとなるような発見はできそうです。

Q. これまではどのような「デザインワーク」が見つかりましたか?

例えば、7月には畑の草刈をしながら見つけた「網目」を取り上げました。草には、いろいろな形の葉がありますが、よく見るとどの葉にも網目があります。葉っぱの網目は葉脈といいます。中心に通っている太いのが主脈。主脈から枝分かれしているのが側脈です。葉っぱで作られた養分は側脈から主脈へ集まり、茎や根に蓄えられます(ガガイモの葉脈)。葉脈の網目は、養分を集めるのに効率の良いデザインだといえます。葉脈のアップをみると、飛行機からみる地形のようにも見えます(カラムシの葉脈)。葉脈の形は、支流から本流に集まる川の流れによく似ています。葉っぱのほかには、ひび割れた休耕田にも網目を見つけました。乾いた田んぼに水を入れたら、割れ目を通って全体に拡がって行きました。やっぱり意味があったんだ! とちょっとびっくり。そして、あなたの手の甲にも網目があるでしょ? ほかには、どんな網目がありますか? といった具合です。

7月には他にも、「放射状」を発見しました。レストランで昼食を注文したときにみた、半切りのミカンがきっかけです。ミカンの房は、中心から放射状に並んでいます。これはやはり、自然のデザインワークです。家に帰って周りを歩いてみると、放射状に広がっているものが結構いろいろ見つかりました。ユリは、葉っぱを放射状に広げることで、光を立体的にとらえています(タカサゴユリ)。また、キクの花は、花びらを放射状に広げることで、「ここに蜜があるよ!」と虫たちにアピールしています(ユウガギク)。クモは、足を放射状に広げることで細い糸でできた巣の上で体を安定させて待機しています(ジョロウグモ)。こうしてみると、放射状の形は意外と効率的だと思うのです。自分の家にある道具の中から、放射状のものを探してみるといろいろ見つかります。デザインの共通性が見出せると、自然のデザインが暮らしの中にもたくさんあることが見えてきます。

旧暦で七夕にあたる8月7日には、「星型」を取り上げました。この季節、星は天空だけでなく地上でも見つかります。畑で見つけた星は、ミニトマトについていました。ミニトマトは、花の形も実のガクも星型をしています。朝の散歩で見つけた星は、コバギボウシとゲンノショウコにありました。コバギボウシは、花の形が星型です。ゲンノショウコは、タネをつけたガクの形が星型でした。天空の星は、光を発して星型に見えますね。だから、星型はエネルギーを発散するデザインだといえます。一方、花を咲かせて実をつけるのは、エネルギーを凝集させる作用だから、星型はエネルギーを集めるデザインでもあるといえるでしょう。集めたり拡げたりするのに向いているこのデザインを僕たちの暮らしにうまく活かす、いいアイデアありませんか?

他にも、「同心円」「しずく」「かぎ爪」「伸びる」「収納」「ラッピング」など、身近にみつけた自然のデザインを写真とともにお伝えしています。

Q. なるほど面白いですね。どうしたらこうした観察眼をもつことができるでしょうか。

私が自然に対峙するときに心がけるのは、米国の先住民に伝わる「ワイドアングルビジョン」(広い視野をもつ)ということです。そして、スローダウン(ゆっくり歩くと視野が広がる)、サイレンス(静かに耳を澄ましていると情報がより入ってくる)、ゲットダウン(しゃがんで見る)、の三つのポイントを意識します。こうして、自分のチャンネルを自然のリズムに調整してみます。人間の脳は色々な記憶を関連付けて問題解決をすることができるので、何かのときに自然からみとったことが生活や仕事の中で役に立つかもしれません。みなさんがみつけた自然のデザインワークもぜひ教えてください。

インタビューを終えて - JFSの気づき

梅崎さんの発信されている「自然のデザインワーク」は、以下のことを教えてくれます。

  • 生活の中で出会う身近な自然に多くのデザインワークがつまっており、誰にでも「自然に学ぶ」ことができる
  • 3つのことを心がければ、より自然の「声」を聞くことができる
  • 自らとった写真を上手に活用することで、文章のみに比べより生き生きと気づきを伝えることができる

これからは、次のような可能性を秘めているのではないでしょうか。

  • 科学離れが進む子供たちの教育現場で、感性教育、科学教育の一環として提供する
  • 研究者や次代を担う学生向けに、「自然のデザインワーク」発見プログラムをつくる

以上です。

(インタビュアー 小林一紀)

※本インタビューはJFSのニュースレターにも同じ内容を掲載しております。

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