プラスチック製品、ユニット住宅の大手メーカーの積水化学工業株式会社が、2002年「積水化学 自然に学ぶものづくり 研究助成プログラム」を開始しました。これは、自然に学んだ知恵をものづくりに活かす研究に、年間総額2,000万円を助成するプログラムです。「21世紀の科学技術のあり方を考え広げる一翼を担いたい」と話す本プログラムのディレクターである前島一夫氏、白鳥和彦氏、広報担当の相原佳世子氏にお話を伺いました。
Q. 自然に学ぶものづくりというユニークな研究に着目されましたね。
化学工業は、これまで石油という魔法のような原料を活用することで発展してきました。しかし、その資源はやがて枯渇してしまうと言われています。また、地球温暖化をはじめとする様々な環境問題が顕著になっています。積水化学工業は、環境経営を会社経営の一つの大きな柱に据えていますので、創立55周年記念事業の一環としてプログラムを発足しました。自然界の生物や天然資源は長い間地球環境に適応していますから、自然に学ぶものづくりは持続可能な社会形成に役立つ技術と言えます。生物模倣科学やバイオ技術、再生可能資源を利活用する材料科学などの研究を幅広く募集しています。
Q. 今年3年目を迎えどのような手ごたえを感じていますか?
2004年度の応募総数は231件と、初年度の124件のおよそ倍まで増えました。また、科学技術の先端を担う大学や研究所、環境NGOなどで、様々な人が自然に学ぶものづくりに注目し始めています。2002年には、国の研究補助金制度「21世紀COEプログラム」に名古屋大学の「自然に学ぶ材料プロセッシングの創成」(拠点リーダー:浅井滋生教授 )が採択されていますが、これがその代表的な例です。
また2003年度より、年に一度助成対象となった研究を一同に会し、研究発表を行うフォーラムを開催していますが、本会が研究者にとって新しい出会いと交流の場になっていることを実感しています。プログラムで知り合った農学と工学の研究者が意気投合し、共同研究を始めた例もありました。理学・工学・農学・薬学・医学などの分野間にネットワークを作り、総合科学としての学問の発展にも寄与したいと考えています。
Q. フォーラム開催の他、どのようにコミュニケーションを展開していますか?
助成対象となった研究を科学雑誌「Newton」や、積水化学工業のウェブサイトに掲載しています。これまで「タマムシに学ぶ構造色発色」「ゲンゴロウに学ぶマイクロマシン」「ラッカセイに学ぶリン資源の有効活用」などの研究を掲載しました。研究者は、自分の仕事を専門家に発表することはあっても、広く一般にアピールできる機会が少ないと聞いたことがあります。そうした中、科学雑誌やウェブでの掲載が、幅広い層の人とコミュニケーションできる機会になると、研究者の方にも好評いただいています。
その他、年に一度助成対象となった研究や研究者の動向などを載せた小冊子を発行しています。本冊子は、大学での授業の副教材や高校生を対象とした科学技術体験プログラム「サイエンスキャンプ」(開催:日本科学技術振興財団)での教材の一つとして活用されています。
Q. コミュニケーションデザインという点からも評価されていますね。
そのような点が評価され、GOOD DESIGN AWARD 2004(財団法人日本産業デザイン振興会)でエコロジーデザイン賞を受賞しました。また、これまで企業は環境に貢献する経営(ビジネスのエコロジー化)を行うのが普通でした。一方、本プログラムは自然に学ぶものづくりという「エコロジーのビジネス化」を提起しています。「エコロジーのビジネス化」による事業は、本物の環境活動になるでしょう。この独創性も評価され受賞につながりました。将来的に、研究者と連携し研究開発ビジネスへ発展させることも考えています。
将来的には、海外からも応募を受け付けたいと思いを膨らませています。さらに、医学と工学の研究者の連携といった、分野を越えて協働した研究募集も企図しています。そのためには分野間のマッチングの場、情報交換できる場が必要です。年に一度のフォーラムだけでなく、そのような場をセッティングできればと考えています。
「積水化学 自然に学ぶものづくり 研究助成プログラム」には、以下のような側面があります。
今後はプログラムのさらなる飛躍を目指し、次のような展開が期待されるでしょう。
以上です。
(インタビュアー 星野敬子)
※本インタビューはJFSのニュースレターにも同じ内容を掲載しております。