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生態系をまねる -- 土地本来の植生に学ぶ

宮脇メソッドによる環境防災林づくり
植物生態学者 宮脇昭氏の事例

背景

日本の3分の2、2500万haを森林が占めるといわれますが、多くは原始からあったものではなく人間が植えた人工の森です。比較的早く育ち、工場製品のような規格品が好まれ、土地の性質に関わらず、スギ、ヒノキ、マツ、カラマツなどの針葉樹ばかりが植えられてきました。

土地本来の森(鎮守の杜)の写真

土地本来の森(鎮守の杜):財団法人 国際生態学センターのウェブサイトより
ふるさとの森も創り、守ってきた日本人の英知、次のミレニアムまでも残る
Chinjuno-mori (after miyawaki 1988)

課題

しかし土地に合わない樹種を植えると、下草刈り、枝打ち、つる切り、間伐などの作業を(20年間も)しなければなりません。江戸時代から日本では、その作業を行い、60年程度で切って売り、また植えるというのを繰り返してきました。

しかし土地に合わない木は、その下に子供ができず「過熟林」になります。過熟林になって生物が弱ると、本能的に子孫を増やそうと、大量の花粉が出ます。それが現在スギ花粉として問題になっています。また、外国から安価な材木が輸入されるために、これまでの森林管理では利益にならないために、放置されるようになっています。そうした森は、根が浅いため、台風で倒れやすく、火事で燃えやすくなります。こうした森はまた、木材生産どころか、水を蓄える、生物を育むといった生態系の機能も果たせません。

自然に学ぶ

植物生態学者の宮脇昭氏(横浜国立大学名誉教授、国立生態学センター研究所長)は、長年の植物研究の結果、「生態学的な脚本にしたがった森づくり」にたどり着きました。その土地にあった樹種を混植・密植する植樹法は「宮脇メソッド」といわれ、これまでに全国で1220箇所、世界中で1500箇所以上もの森づくりがその方法で行われてきました。

もし人間の活動をいっさい停止したと仮定して、その立地がどのような自然植生を支えることができるかをあらわしたのが、潜在自然植生図です。宮脇教授が日本中を歩いて現地調査した結果、日本の本州太平洋岸の潜在自然植生は、ほとんどがシイ、タブ、カシ類などの照葉樹ということがわかりました。また健全な常緑樹林は、高木、亜高木、低木、草本層と、多層群落を構成しています。こうした森は、木が密集して1m2あたりに500から1,000の根があり、地震や台風、火事、津波などの災害にも強く、市民の生活を守る防災・水源林の機能を備えています。また風を防ぎ、騒音を防ぎ、温度を調節し、吸塵などの多彩な環境保全にも役立っています。

宮脇メソッドでは、事前の科学的な現地調査によって土地本来の樹種を把握します。そして主役になる本命の木を選び、それを支える三役、五役の樹種を選定。そして森を構成しているできるだけ多くの樹種を、自然の森の掟に従って、混植・密植します。そしてそれぞれが競争しながら少し我慢して共に生きるのが、健全な生物社会です。そうして冬越せば、1年で1m、4年で3m、8年で6m、12年で10mと生長し、多様な自然環境に応じた多彩な機能を果たす多層群落の自然の森に限りなく近い防災環境保全林が形成されます。二酸化炭素を吸収して温暖化の進行を緩和するだけでなく、森本来の生態学的な機能を備え人間を含めた多様な生物をはぐくむことができます。

JFS/久里浜高校裏の防災環境保全林の写真

財団法人 国際生態学センターのウェブサイトより
久里浜高校裏の防災環境保全林

参考

  • (財)国際生態学センター:「森づくりは命と文化と遺伝資源を守る」
  • 『NHK知るを楽しむ この人この世界 日本一多くの木を植えた男 宮脇昭』(日本放送出版教会)
 

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