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先進国で起きる『飢餓問題』の構造

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第2期・第9回講義録

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チャールズ・マクジルトン
セカンドハーベストジャパン理事長

米国モンタナ州生まれ。84年、米海軍横須賀基地配属で初来日。山谷で路上生活者の支援活動に参加し、97年から15カ月間、隅田川沿いのブルーシートの家で暮らす。日本初のフードバンクであるNPO法人フードボートを02年に設立、04年にセカンドハーベストジャパンに改名。日本におけるフードバンク活動の促進者として活躍し、07年にはフードバンクの世界的ネットワーク組織「グローバルフードバンキングネットワーク」のメンバーになる。

◆講義録

OECDによれば、日本では約1950万人が貧困線以下の生活を強いられているという。こうした中、食の安全確保ができていない人が少なくとも65万人以上いるといわれている。私たちセカンドハーベストジャパンは、こうした人びとや、彼らを支援する団体に食料を提供している。

すべての人に食の安全確保を

食の安全確保とは、日常生活を送るために、安全かつ栄養のある十分な食料を、適切な手段で得られることだ。例えば、路上生活者が役所に助けを求めた場合、カップラーメンやパンをもらえることもあるかもしれないが、そうした食品に十分な栄養があるとはいえない。あるいは、ホームレスがゴミ箱から残飯をあさるとしたら、仮に食料を手にすることができるとしても、適切な手段とはいえないだろう。空腹を満たすだけでは、安全確保とはいえない。

食の安全確保ができてない65万人の中で、多数を占めるのはどういった人たちだろうか。メディアではホームレスが取り上げられることが多いが、実は全体の約4%に過ぎない。大半は主に母子家庭(53%)と高齢者(43%)が占めている。

母子家庭の34万人は食の安全確保ができていない。全国人口統計によれば、母子家庭は340万世帯あるが、その10%が食の安全確保ができていないことになる。母子家庭であれば、子どもに食べさせるために、1日2食しか食べないで我慢している母親もいるだろう。

一方で、日本では毎年約2000万トンの食料が廃棄されている。世界の食料援助総量である年間850万トンの2倍以上を捨てているとは、何ともったいないことだろう。

食料を「再収穫」する仕組み

こうした状況に対するひとつのレスポンスが私たちセカンドハーベストジャパンの活動だ。私たちのような活動は40年前に米国で始まった。日本では私たちが初めてだが、米国ではもっと大規模な団体が200以上あるといわれている。ほとんどすべての食品会社が参加し、ごく当たり前の活動として社会に受け入れられている。

セカンドハーベストという名前は、直訳すると「再収穫」。一度廃棄されそうになった食品を活用し、2002年の設立以来、札幌の炊き出しから宮崎の養護施設まで、トラックを運転して全国150カ所以上で配ってきた。私たちの活動には、炊き出し、ハーベストパントリー、フードバンク、政策提言という4つの柱がある。このうち最初の3つの活動をご紹介したい。

1つめの炊き出しでは、毎週、上野公園の約500人のホームレスに、ご飯、スープ、野菜、肉、パンなどを配っている。そのすべてが、企業などから寄付された食品で賄われている。ボランティアにとっても参加しやすい活動で、毎回30~40人が手伝いに来てくれている。通りすがりの人の目も引くので、外から見てもわかりやすく、私たちを炊き出し団体と思っている人もいるかもしれないが、この活動に使っている食料は全体の1割と、割合としては決して大きくない。

2つめの柱が、生活に困っている家庭に直接配達するという活動だ。食べるものに困ったときはどこへいけばいいのだろうか。日本には全国どこを探しても、食料配給センター(パントリー)がない。家賃も払わなければいけないのに、明日食べるものさえない、というとき、食べ物の援助をもらえるところがまったくないのが現状だ。

先ほども述べたように、そもそも食べ物がないわけではない。食料は余っている。私たちのように配る人間がいる。それなのにインフラだけがない。そのために、今は生活に困っている家庭に直接配達している。大手流通チェーン店に毎日余った食料を取りに行っては倉庫に持ち帰り、全国の家庭の事情に合わせて配送している。例えば、宗教上の理由で豚は食べない家庭に配慮する、子どもがいる家庭には子どもが喜ぶものを入れる、アレルギーがある人には気をつける、という具合だ。

このサービスを利用している人の中には、例えば夫の暴力から逃れるためシェルターで過ごした後、新しいアパートで生活を始めようという女性がいる。新しい生活には大きな不安があるが、月に2回ずつ3カ月間、食料を届けることで、まずは食べ物の心配をしないで、人生を建て直してもらえればと思う。こうしたサービスの利用者からはよくお礼をいただく。生活に大きな不安を抱える中で、誰かとつながっているという安心感が大きいのだろうと思う。私たちが思っている以上に喜んでもらえているようで、小さいけれどいちばん大切な活動だ。

ただし、これはいわば「その場しのぎ」のプロジェクトだ。継続的な支援ではなく緊急の対応と考えている。本来は、各地の公民館や教会など、緊急食料品を保管しておく場所を確保し、サポートを必要とする人が近所のそうした場所に取りにいける仕組みをつくりたい。

企業にとってのメリット

3つ目に紹介するのはフードバンクで、これがメインの活動だ。扱う食べ物の量も多い。食品会社から、さまざまな事情で廃棄される食品を引き取り、シェルターやホスピス、炊き出しの団体へ送る。要らないものを再分配という単純な仕組みだ。

この活動は企業にとってもメリットが大きい。まず廃棄のための経費を節約できる。例えばトラック1台分、10トンの食品を廃棄するには、産廃業者に依頼するのに約100万円かかるそうだ。1トン10万円が相場といわれているが、レトルトパックなど、包装を手作業ではがすなどの手間がかかると、さらに高額になる。企業にとってはこれがもっとも大きなメリットだ。

2つめのメリットは、社員の士気が高まることだ。まだ食べられる食品を廃棄するのは、社員にとっても心苦しい。捨ててしまえばそれでおしまいだが、私たちが引き取れば、「この食品はこの後どこに行って、誰の役に立つのだろう?」と想像することができる。

3つめのメリットは企業イメージの向上だ。よき企業市民として社会に貢献するCSRの一環として捉えることができる。捨てる代わりに寄付できるので、企業にとっては一石二鳥といえる。

4つめに、製品を多くの人に知ってもらえるというメリットがある。あるメーカーから5トンのレーズンが届いたことがある。コンビニにあるような一人用のパッケージに入った懸賞つきの商品だが、応募方法の書かれたシールをはがそうとすると、接着が強力すぎてパッケージが破けてしまう、という欠陥があった。レーズン自体には何ら問題がないのに回収処分しなければならないというので、私たちが引き取ることになった。元々はコンビニを市場に考えていたはずだが、私たちを通して、老人ホームなどのいわば第二の市場に流すことができたことになる。

必要な人に必要なものを届ける架け橋として

これまでの活動は関東中心だったため、遠方の人にはなかなか参加いただく機会がなかったのだが、最近はメディアで紹介してもらう機会も増え、そのおかげで「うちの地域でやりたい」という連絡をいただくようになった。今後、さらに多くの人に参加してもらい、応援してもらうための方策のひとつとして、「認定ボランティア制度」を立ち上げた。

この制度では、ボランティア希望者に研修を行い、まず基本的なことを学んでいただく。認定された方には、例えば毎月1トンの食品を送って、そこから地域の施設に配っていただき、「ミニフードバンク」を各地につくろうという構想だ。それを通して全国的なフードバンクネットワークをつくりたいと考えている。食料を必要とする家庭に緊急食料を提供する全国システムだ。

私たちの活動でいちばん大切なことは信頼関係だ。まず、配送先の施設と私たちの間に信頼関係がなくてはならない。施設には、何人の子供たちが生活しているのか、いちばん困っていることは何か、そうしたことを知らないで、むやみに食品を配ることはできない。私たちが食べ物を配っているからといって、「あげる側」と「もらう側」に上下関係があってはならず、常に対等な信頼関係を築くように心がけている。施設の方には「食品をありがとう」と言ってもらえるのは確かだが、私たちから見れば、逆に「もらってくれてありがとう」ともいえる。多くの企業から提供された食料をうまく配らないと、在庫があふれて大変という事情があるからだ。そういう意味で、配送先の施設と私たちの間は、常にお互いさまという関係でありたい。

それは寄付してもらう企業と私たちの間の関係にも当てはまる。「寄付してあげる」という姿勢の企業もなかにはあるが、私たちは決して寄付してくださいという「お願い」はしないことにしている。特に、初めておつきあいをする企業に対しては、最初から寄付がほしいわけではなく、まず信頼関係を築きたいということを伝えている。

私たちは相手を助けるという気持ちはない。私たちはあくまで架け橋に過ぎないと思っている。食べ物を粗末にしてはもったいない、とはよく言われるが、余っている食べ物と、それを必要としている人をつなぐ架け橋がないことこそがもったいないと思う。

かつてキング牧師が、「私たちでなければ、だれがやる? 今でなければ、いつやる?」と言っていた。行政がやればいい、お金に余裕ができたらやろう、ではなく、今私たちから始めていこうという思いで、今後も活動を続けていきたい。

◆配布資料(PDFファイル 約3.3MB)

◆私が考える「サステナブルな社会」

すべての人に、無条件で食の安全確保が保障されていることが必要です。日常生活を送るために、安全かつ栄養のある十分な食糧を、適切な手段で得られること―これがなければサステナブルな社会とはいえないでしょう。それでも支援が必要な人がいるなら、全国的なフードバンクネットワークをつくってサポートしていきたいと考えています。

◆次世代へのメッセージ

「何でこういう問題があるんだろう?」と不満を言うだけで終わっては意味がありません。「こうしたらいいじゃないか」と提案・実行できることが大切です。お金に余裕ができたら、などと言っていないで、自分から動いてみることです。誰かを助けるというより、相手と信頼関係を築き、架け橋になることで、思いを実行に移してみてください。

◆受講生の講義レポートから

「時間や忍耐を積み重ねながら信頼関係を築き、じわじわと広める活動をしていて、『橋』という言葉がぴったりです。妥協せず、一貫した筋を通している様が、とてもかっこいいです」

「食料を配ることがそのときの援助にはなっても、社会問題を根本的に根絶することにはならないということに、ボランティアの難しさを感じました」

「余っている食べ物と、食べる物がないという状況を『つなぐ』という理念に、非常に共感しました。起こり得る問題など難しいことを考えてしまいがちですが、信頼関係がすべての根本にあるということを学びました。フードバンクに限らず、社会全体における鍵になると思います」

「フードバンクの活動は以前から知っていましたが、これほど広範囲の施設に再配分していることに驚き、日本の中での貧困を意識するきっかけになりました」

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