2014年10月09日
JFS ニュースレター No.145 (2014年9月号)
イメージ画像:Photo by kazutan3@YCC Some Rights Reserved.
JFSの理事のおひとりである山本良一東京大学名誉教授らが、2014年8月12日、一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 会長 元内閣総理大臣の森 喜朗氏にあてて、『2020年の東京五輪を"三方よし"の「エシカル五輪」に』とする要望書を提出しました。とても大事な考え方・動きだと思い、今回のニュースレターでは、この要望書本文をご紹介します。
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私たち「日本エシカル推進協議会」に集う一同は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪と略称)を「エシカル五輪」とするよう、ここに提案いたします。
それは一つには、オリンピック憲章に定める「オリンピズムの根本原則」が、その第一原則として「社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造」を掲げているように、オリンピックがまさに「エシカルな生き方」をその基本哲学として追求しているからです。
もう一方では、1994年、同憲章において「環境問題に関心を持ち、、、オリンピック競技大会開催について持続可能な開発を促進すること」がIOCの使命と役割の一つに加えられましたが、今日の世界においては、環境問題だけでなく人としての尊厳や社会的影響にも配慮した全方位的な「倫理性=エシカル性」の促進が求められているからでもあります。
日本には、「もったいない」や「おもてなし」の精神に加え、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という他者や社会の利益にも配慮した倫理観が脈々と受け継がれています。クーベルタン男爵が近代五輪を創始したとき以来の基本哲学に立脚しつつ、日本ならではの倫理的伝統を活かし発展させた「エシカル東京五輪」を実現することによって、よりよきレガシーをオリンピック史に残さんことをここに願ってやみません。
1)人と環境に優しいエシカル五輪
2020年の東京五輪を、同組織委員会が表明する「環境を優先した大会」とすることに加え、基本的な人権や社会的な影響にも配慮した、「人と環境に優しいエシカル五輪」とする。
2)エシカルな調達と運営
より具体的には、東京五輪に関わる全ての調達および運営(組織・大会)をエシカル化するとともに、その経験を五輪後の東京都ひいては日本全体の調達や運営にも活かす。
例えば、金、銀、銅メダルの原材料には東京都で回収した廃棄物からリサイクルした金、銀、銅を用いる、選手村で提供する多くの食品をフェアトレード、オーガニック、ASC認証製品等とする、選手のユニフォームはエシカルファッションユニフォームとするなどである。
3)エシカル・スタンダードの確立
調達および運営のエシカル化に加え、企業をはじめとするあらゆる組織がISO26000等に示された社会的責任の完遂を促進する「エシカル・スタンダード」をマルチ・ステークホルダー方式で策定・確立する。
4)エシカルな日本の伝統を活かす
オリンピックの基本哲学に立脚しつつ、日本社会が古(いにしえ)より受け継いできた倫理的・利他的価値観である「三方よし」をエシカル東京五輪に十全に活かし、発展させ、オリンピック史にレガシーとして残す。
5)社会的な絆の強化と伝承
東日本大震災を機に再認識された、弱い立場に立たされた人々への思いやりや社会的な「絆」を、エシカル五輪の実現によって一層強め、深めることによって、人にも環境にも優しい日本社会をレガシーとして将来世代に伝承する。
6)東京の「エシカルタウン」化と全国へのエシカル文化の普及
エシカル五輪に向けて東京を「エシカルタウン(エシカルなモデル都市)」化しつつ、東京への一極集中を避けるべく、日本全国にエシカルな生き方、エシカルタウン、エシカル文化を普及させる。
※「エシカル」と「三方よし」の定義:
「エシカル」に定まった定義はないが、一般に「人(社会)と環境に優しい」ないし「人や環境を思いやる」ことをもってエシカルとすることが多く、本提案書もその立場に立つ。日本の「もったいない」は環境への配慮ないし環境との調和を、「おもてなし」は客人への配慮を一般的に意味する。「三方よし」は、江戸時代より近江商人が重んじてきた商業倫理で、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という他者や社会に配慮した倫理的な商いのことを指す。
ただし、本提案書において「三方よし」は、従来の意味を超えて、経済合理性/効率性だけでなく社会および環境への影響にも十分に配慮した、「経済よし、社会よし、環境よし」をもって「三方よし」とし、「エシカル」と同義とする。「三方よし」の中には、環境や客人への配慮を意味する「もったいない」および「おもてなし」の精神も含まれる。
1)サステナビリティ確保の標準化
環境問題に配慮し、持続可能な開発を促進する形で五輪大会を開催するようオリンピック憲章が求めて以来、2012年のロンドン五輪は持続可能な調達基準に従った調達を行い、2016年のリオデジャネイロ五輪も持続性の認証(MSCやASC)を得た水産物の提供を既に決定するなど、サステナビリティの確保は五輪大会開催におけるスタンダードとなっている。
2)環境配慮からエシカルへ
「環境の優先」を掲げる東京五輪は上記スタンダードに即しているものの、「サステナビリティ」が環境配慮にとどまらず社会的配慮をも含む包括的な概念であることへの理解が、オリンピック憲章においても日本国内においてもなお十分とは言えない。そうした中で、環境優先の東京五輪を社会的影響にも配慮した全方位的な「エシカル五輪」へと発展させることによって、五輪のスタンダードをさらなる高みへと押し上げる貢献を行うことができる。
3)時代の要請
2008年のリーマンショックを機に、経済効率の飽くなき追求がもたらす格差の拡大といった負の側面への懸念が国境を越えて広がる中で、人間性と持続性を回復する「エシカル」な経済社会のあり方および生き方が世界各地で模索されており、経済社会および生き方のエシカル化はまさに時代の要請となっている。
4)「成熟社会日本」後の社会ビジョン
巨額の財政赤字に急速な少子高齢化に象徴される「成熟社会」に入った日本において、若い世代、将来世代が安心して暮らせる社会ビジョンの確立が求められている。誰もが尊厳をもって暮らすことができ、豊かな自然や環境とも共生できる「人と環境に優しい」社会、すなわち「エシカル」な社会こそ、成熟社会に入った日本において確立すべき将来ビジョンと言える。それはまた、「もったいない」、「おもてなし」、「三方よし」といった、環境や他者、社会への思いやりに満ちた古き良き伝統に根ざした社会ビジョンである。これは「Rio+20」サミット以降、国際社会が目指してきた方向とも一致する。
5)「消費者市民社会」実現への寄与
2012年末に施行された「消費者教育推進法」は「消費者市民社会」の形成を目的としている。それは、「自らの消費行動が現在・将来にわたって内外の社会経済や地球環境に影響を及ぼしうることを消費者が自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」、つまり「フェアでサステナブル(=エシカル)」な社会の形成を目ざしたもので、エシカル五輪こそがその実現に大きく貢献することができる。
エシカル五輪を実現するための指針には、以下が含まれる。
1)経済よし
2)社会よし
3)環境よし
4)エシカルな組織運営/大会運営
エシカル東京五輪の実現は、日本にエシカルな生き方ないしエシカル文化を定着させ、日本をエシカルな社会へと変革するうえでの一里塚と位置づける。その実現を契機に東京を「エシカルタウン」のモデル都市とし、モデルを日本各地に広げることによって、最終的に日本列島のエシカル・アイランド化を目指す。わが国では従来、主として資源循環型経済社会、低炭素社会を目指したエコタウン、環境未来型都市づくりが進められてきた。これに福祉都市、フェアトレードタウンなど社会的価値の増大を志向する取組みを統合することによってエシカルタウン(環境福祉都市)を目指すべきである。以下にそのスケジュールを示す。
2020年 エシカル五輪の実現、東京都のエシカルタウン化(=モデル都市)
2025年 日本全体のエシカル・アイランド化
以上を実現することによって、単に五輪のエシカル化にとどまらず、経済社会全体のエシカル化の範を世界に示すことができると私たちは考えます。「地球の環境と社会が共生し、融け合える不滅の共生文明圏を再構築していく」ため、日本はこのことによって、その先導役を果たしていけるものと思います。
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(日本エシカル推進協議会)