ニュースレター

2014年06月17日

 

JFSシンポジウム『地域から幸せを考える』より:パネルディスカッション

Keywords:  ニュースレター  市民社会・地域  幸せ 

 

JFS ニュースレター No.141 (2014年5月号)


2013年度、JFSでは「地域の幸せ指標」を1つのテーマとして取り上げて、取り組んできました。今回のニュースレターでは、2014年2月6日に、コミュニティや公共政策を専門とされている研究者や現場で活躍中の地域づくりプロデューサーの方をお迎えして開催したシンポジウム『地域から幸せを考える』より、パネルディスカッションの要約をお届けします。これまでにJFSニュースレターでご紹介した本プロジェクトの調査研究の成果発表と提言、自治体の取り組みの事例紹介も併せてご覧ください。

地域の経済と幸せプロジェクトの報告と今後
人口減少時代の社会構想~地域の経済と幸せという観点から
21世紀兵庫長期ビジョンと兵庫の豊かさ指標
海士町における地域経済と幸せ

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JFS「地域の経済と幸せ」プロジェクト:シンポジウム 『地域から幸せを考える』より

広井 良典氏 千葉大学法政経学部総合政策学科教授
平田 晋作氏 兵庫県企画県民部ビジョン課 主任(当時)
阿部 裕志氏 株式会社 巡の環 代表取締役
枝廣 淳子  環境ジャーナリスト/JFS代表

広井:今はある意味指標ブームのようで、GDPに代わる幸福度指標などが百花繚乱のようにでてきていますが、同時に、「それで?」という視点も大事だと思います。一つには、何らかの政策や変えていくものと結び付く必要があるでしょう。現在GDPという指標がいかに人々の行動様式や価値を支配しているかを思えば、それに代わる指標を出していくこと自体にも意味があると思います。これまでの指標ではネガティブに評価されていた地域が、実はものすごい価値を持っているのだと、人々の物の見方を変えていく力もあるでしょう。

写真:広井良典氏
広井良典氏

枝廣:指標を作った目的を調べてみると、いくつかのグループに分けられそうです。一つは、「こういう地域にしたい」というビジョンがあり、そこへ向けての進捗状況を定期的にチェックしていくための指標です。もう一つは、指標をつくるプロセスそのものに意味があるものです。兵庫県の取り組みもそうですね、地域のビジョン委員というプロセスによって、地域住民を巻き込み、そうでなかったら興味を持たないもしくは考えない人たちにも、地域の未来を一緒に考えてもらう。

また、政策全般のスクリーニング基準にする考え方もありますね。ブータン政府では、すべての分野の新しい政策を、必ずGNH(国民総幸福)に照らし合わせて評価してから進めると聞きました。新しい施策をやろうとしたときに、「それはGNHを進めるのか進めないのか」というスクリーニングをかけて、たとえその部局としてはやった方が良いことでも、GNHにマイナスだとわかると、そこでチェックがかかるそうです。国のビジョンに向けて、すべての省庁の施策を整合性のとれた形で進めていくための指標という位置づけなのでしょうね。

話は変わりますが、地域の幸福度を考えるとき、まわりをみると、優秀で感度の高い若い人たちがどんどん都市から地域に出ていっているという実感があります。一方、「その人たちは家族との時間もあって、自然の中で暮らして幸せかもしれないけど、その人たちの車の走る道路や、その人たちが将来受け取るであろう年金などは、都会に残って死ぬほど働いている自分たちの税金に支えられているんじゃないか」という声もあります。ミクロレベルで自分の暮らしを変えていくことは個人がやろうと思えばできますが、そういった動きと国全体の社会・経済との整合性をどのようにとったらよいのでしょうか?

写真:枝廣淳子
枝廣淳子

広井:非常に本質的な問いですよね。つまり、これからの社会全体をどのように、大きく言えばシステムとして構想していくかですね。実はまだ誰もそれを描けていないのですが、「2050年の日本では、どこに誰が住んでどういう暮らしを営むのか、どういう姿が望ましいか」という全体のビジョンを考えていく必要があるのだと思います。私は「緑の分権的福祉国家」とか「緑の分権的福祉社会」と言うのですが、そういう環境や福祉、あるいはローカルとナショナル、中央と地方都市と農村の関係も含めて、「どういう社会を日本は目指していくのか」の議論が並行して必要です。枝廣さんが言われたように、個別の動きが完結して孤立してあるわけではないし、相互依存の中で成り立っているわけですから。先ほどの、指標を考えていくということも結局、「どういう社会を構想していくか」ということになると思います。

「緑の分権的福祉国家」と言いましたが、決してそれはユートピア的なものではなくて、私のイメージでは、ドイツやデンマークなどはそれにかなり近いものを実現している。社会保障もしっかりして、ローカルな経済循環から出発して積み上げてさらにグローバルにもっていくような姿がある。

枝廣:それはある時点で誰かがそういう未来図を描いてそちらに向かって進んでいったのでしょうか? どういうふうに実現していったのでしょうか?

広井:ある人物が引っ張っていったというよりは、やはり人々全体の集合的な意識というのでしょうか、「こういう社会を目指していきたい」という思いが流れを作っていくのではないかと思います。そして、そういう人々の意識や価値観は時代が作るものだと思っています。

平田:それに関連して、阿部さんにお伺いしたいのですが、海士町が良い方に変わっていく一番のきっかけを生み出したのは何だったと思われますか?

写真:平田晋作氏
平田晋作氏

阿部:やはり「このままいくとどうなるか」という未来の想定だと思います。財政基金にしても、平成15年の時点で「同じ予算の使い方でいったら、あと3年で無くなる」とのが見えているんですよ。その時に、行政の人たちの感度も良かったと思います。

写真:阿部裕志氏
阿部裕志氏

広井:先ほど平田さんが、県の役割という話をされましたが、もう少し広い意味で、「都市と農村の関係」が戦後の日本では分断されてきたように思います。都市と農村は相互に依存していますが、「どちらがより自立しているのだろう?」と考えると、通常は「地方都市と農村が経済的に都市に依存していて、東京のような大都市が自立している」と言われます。でも、マテリアルフロー(物質循環)を見ると、都市は完全に農村の上に乗っかって、食料やエネルギーを安く調達しているのです。そのことを高度成長期には忘れていたが、震災後に明るみに出たようにも思います。そういった都市と農村の繋がりや関係をどのように作っていくか、どう考えていくかも大事です。

平田:「都市農村交流」は兵庫県でも大きなキーワードの1つです。兵庫県の神戸市といえば非常に都会的なイメージがありますが、実は神戸市は非常に地域が細長くても、一歩奥に入ると農村的な空気が溢れていて、都市と農村の関係が非常に近い。そのような都市に近い特性を活かして、都市農園や、都市の人が農業の生産者と触れあい、農業や自然を体験できることができないか。農村地域に対して、最初は観光ツーリズムでしかけ、いかにそこからUターン、Iターンを進めていけるか。また最近、県では農村へのIT企業の誘致も進めています。IT企業は、都市でなくてもやっていけますから。「いろいろな仕事が実は農村でもできるんだよ」と。

また、兵庫県は毎年台風に悩まされるのですが、川の流域の繋がりが意外と意識されていない。上流の農村で林業が非常に衰退していて、人工林の手入れが行き届いていない。そのため水害が起こる。そうすると、流木が流れていくなど下流や海にも被害を及ぼす可能性がある。このように流域で考えると、実は地域のつながりとは相互依存なんですね。だから、都市の企業にも森づくりにちゃんと責任も持って参加してもらう。どちらかがどちらに乗っかるのではなくて、「互いにとって互いが必要」ということを、県としても情報を出していくところです。

枝廣:今回のJFSのプロジェクトでは、地域の幸せにとっての金銭的な側面を意識しました。単に所得や生活水準だけではなくて、一度地域に入ったお金が地域でどれくらい滞留して循環するか、すぐに地域外に出てしまうのか。お金の流れとしての循環は、地域ではまだあまり考えられていないけれど、重要ではないでしょうか。

阿部:海士町の地域内経済の循環でいえば、10年ほど地域通貨をやっています。役場の職員のボーナスの一部が 、これで払われます。海士町内の商店でもほぼ100%使えます。海士町の強みは「島だからお金の出入りが明確に見える」こと。だからこそできる社会実験をやるべきだと思っています。

たとえば、地域の乗数効果を考慮した公共事業の発注の仕方はないか。ブロック経済との線引きも難しいと思いますが。今地元の業者は苦しい状況です。日本全体で公共事業が減っていく中、本土の大手の公共事業会社が格安の価格で入札にきます。くるので、負けてしまうんです。地元業者は規模が小さく体力がないので価格を下げることは難しいし、資材の仕入れにもフェリー代もかかって高くなっていますので、どうやっても負けてしまうんです。そこを今、地元のメンバー何人かが「赤字を出しても絶対地元で仕事をとる」と頑張っています。そうすれば、地元の経済も回るからと。そういう状況を見ていると、たとえば「二割入札価格が高くても、こちらに発注した方が地域としてはトータルなメリットがある」ことがわかる指標が作れれば、そして「海士町の公共事業はこういう基準で発注します」といったことができると、地域経済の循環がよくなるんじゃないかと考えています。

枝廣:そろそろ時間となりました。先ほど広井先生から「ドイツやデンマークも、誰かがありたい姿を作ったというよりも、人々の集団的・集合的な意識が作っていった」という話がありましたが、私たちの意識が集まることで社会のありたい姿をつくっていけるとしたら、とても希望が持てると思いました。いろいろな議論をありがとうございました。

(編集:枝廣淳子)

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