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環境税は誰が担うのか?―気候変動対策の『現場』から考える

ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ 第4期・第9回講義録

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足立治郎氏
NPO法人「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 「持続可能な社会と税制・財政プログラム」コーディネーター

学生時代より、ODA改革や企業の環境対策強化のNGO活動に取り組む。東レ勤務を経て、1995年よりJACSESスタッフ。炭素税研究会コーディネーター、日本品質保証機構CDM諮問委員会委員、経済産業省地球温暖化対応のための経済的手法研究会委員なども兼務。共著書に、『環境税―税財政改革と持続可能な福祉社会』『カーボンマーケットとCDM』『地球の限界』『環太郎の会社のここが知りたい~ぼくたちのエコロジー就職宣言』など。

◆講義録

環境税のメリット・デメリット

環境税とは、環境保全のための税の総称である。このうち、地球温暖化の原因となる石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料の燃焼で排出される二酸化炭素(CO2)に対する税は、特に炭素税と呼ばれるが、政府では炭素税を指して環境税と呼ぶことも多い。今日も、CO2の排出抑制のための税という意味で環境税という言葉を使うことにしたい。

環境税はなぜ必要なのだろうか。例えばここにAとBという二つの商品があって、商品Aは商品Bよりも製造過程で3倍のCO2を出しているとしよう。この場合、CO2排出の点では商品Bのほうが環境にいいのは明らかだ。だが、今の日本のように環境税がなく商品Bのほうが値段が高ければ、商品Bを買ってくれる人は増えないだろう。いくら頑張って環境にいいものをつくろうにも、買う人がいなければ、そうした商品生産は続かない。そこで、CO2排出量に見合った課税をし、環境にいい商品が販売競争において有利になるようにすれば、CO2排出が削減されて温暖化防止に効果があるだろう、という考え方が環境税の背景にある。

今はその仕組みがないため、経済的に貧しい小島嶼国や将来世代が、地球温暖化によるコストを負担するという不公平が生じる可能性が高い。そうした市場の歪みを解決するため、経済システムに環境コストを適正に組み込み、「価格インセンティブ効果」を生み出せることが環境税のメリットの一つだ。

そのほか、「アナウンスメント効果」も期待できる。化石燃料の利用がCO2排出につながり地球温暖化を促進してしまうことが、環境税という形で多くの人に伝わりやすくなるかもしれない。また、税収を気候変動対策に充てる「財源効果」も見込める。

一方で、環境税の導入に疑問を投げかける声もある。日本だけが課税すれば、産業の国際競争力に悪影響を与えるのではないか、という意見もある。温室効果ガスの排出量は業界によって大きなばらつきがあるため、例えば鉄鋼業界とか紙パルプ業界、セメント業界など、排出量の多い業界が課税の負担に耐えられるのか、という懸念の声もある。国内での操業コストが増え、工場の海外移転が進むだけでは、世界規模で温室効果ガスが減らない。企業の人と話すと、環境税を課せられるとCO2排出削減に向けた技術革新の研究開発費用が捻出できなくなり、かえって削減努力を損ないかねない、という声も聞く。


エネルギー税全体での議論を

では、ここで海外の動向を見てみよう。北欧の環境先進国といわれる国々では、既に1990年代初頭に環境税を導入している。1999年にはドイツ、イタリア、2001年にはイギリスもそれに続いた。これらの国々のねらいは、1997年に採択された京都議定書の目標達成だ。最近では、2008年にスイス、2009年にはアイルランドが導入し、ヨーロッパの主だった国々の多くが既に導入している。

ヨーロッパで比較的導入が進んでいる背景には、EU統合が進む中で、EU全体で共通の環境税を定めようという議論がなされてきたことがある。まだ全体での導入にはいたっていないが、今も継続的に議論されている。

米国でも環境税導入の検討はされているが、あまり積極的ではない。カナダは国全体ではなくて地方政府レベルで、2007年にケベック州、2008年にブリティッシュコロンビア州が導入している。アジアではまだ実現していないが、中国や韓国では検討が始まっている。

ヨーロッパの例を見ると、環境税を導入する際に既存のエネルギー税を改革していることが分かる。例えば、既にガソリンに課税されているとしたら、それをそのままにしておいて、さらに環境税を課すことは説得力がないだろう。環境税の導入に際しては、既存の税制改革が重要なポイントになる。

ただしここで重要なのは、エネルギー課税全体が強化されるように設計することだ。例えば、ガソリン税が従来は1リットル当たり20円だとしたら、その課税を15円に下げた上で新たに10円の環境税を課せばトータルでは25円の課税となり、ガソリン使用によるCO2排出が削減されるだろう。ドイツをはじめとしてヨーロッパでは、こうした制度設計が多い。

日本のガソリン税の税率は、クルマ社会のアメリカの税率よりは高いものの、ヨーロッパの各国の税率に比べるとかなり低いのだが、民主党はさらにリッター当たり25円下げるという案を出している。昨年の環境省の案でも、まずガソリン税を25円下げた後に、20円の環境税を課すとしており、結局ガソリン代が5円下がることになる。これでは、自動車利用者がトクをし、温暖化防止のために公共交通を利用している人に負担の大きい制度となってしまう。


Bads課税とGoods減税

現在、日本には次のようなエネルギー税がある。ガソリンに対するガソリン税(揮発油税と地方道路税)、トラックなどディーゼル車に対する軽油引取税、プロパンガスで走るタクシーに課せられる石油ガス税、さらに石油と石炭と天然ガス全部にかかる石油石炭税という税金もある。飛行機の燃料には航空機燃料税がかかり、電力に対しては電源開発促進税という税金がかかる。

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こうした既存エネルギー税の改革を考える際には、それぞれがどの省庁の所管なのかも重要だ。エネルギー政策にかかわる石油石炭税や電源開発促進税は経済産業省だが、揮発油税、地方道路税、軽油引取税、航空機燃料税などは、道路整備や空港整備に関係するものなので国土交通省が所管している。一般に省庁間での調整は非常に困難なため、環境省は既存のエネルギー税はそのままに、環境税をプラスする提案をしていたが、負担増を避けたい経済界からの反発もあり、うまくいってない。

環境税を導入できた場合、税収の使途はどうするのがいいのだろうか。日本では、環境対策に使うのが当たり前という意見が少なくないが、ヨーロッパではそういう認識は一般的ではなく、環境税の税収はその他の税の減税に使われることが多い。

例えば、フィンランドやスウェーデンでは所得税の減税に充てている。デンマークやドイツ、イタリア、イギリスなどでは、主に社会保険料や雇用保険、年金保険料(広い意味での税金)などを減額するという手法をとっている。つまり、政府全体の税収はあまり変えず、環境税を徴収する代わりにほかの部分で減税しているのだ。温室効果ガスを出すという、環境保全に逆行し社会全体にとって好ましくないこと(Bads)には課税を強化する一方で、労働・雇用などの社会的意義の高いこと(Goods)に課されている税を軽減することで、経済や雇用を活性化しよう、という考え方だ。

日本では、「環境税=増税」というイメージがあり、「社会のために、みんなで痛みに耐えましょう」という話になりがちだが、それとは違う形の例としてヨーロッパが参考になるだろう。


税金とは、政府へのファンド・レイジング

環境税の話は一見遠くに感じられるかもしれない。そこで、そもそも税金とは何かを振り返ってみよう。一般に税金とは、「取られてしまうもの」、と感じていないだろうか。本来はそうではなく、公共政策のプロである役所や政治家に自分たちのお金を「付託しているもの」、と考えるべきだ。いわば政府に対するファンド・レイジングである。そう考えれば、そのお金が効果的に使われているかどうか、政府は納税者に説明する責務があり、私たちは政府をチェックする権利がある。

気候変動問題の「現場」とはどこだろうか。ツバルなどの小島嶼国を思い浮かべる人も多いだろう。確かに、最も被害を受けやすい象徴として、そこも「現場」の一つには違いないが、「気候変動対策の現場」はどこかといえば、実は私たち一人ひとり、各家庭であり、仕事場としての企業などである。環境税など気候変動対策のための政策をつくる際には、その現場がどういう状況にあるのかを十分に踏まえていなければならない。政策立案者は、世界における日本の産業界の位置づけも把握している必要がある。環境税検討・導入の際には、世界経済全体を見据えていなければならない。環境税は、環境政策というだけではなく、今後の経済をどうしていくかという経済政策でもある。

私たち一人ひとりは、現場でCO2を出し気候変動対策を進める主役であると同時に、環境税が導入されれば納税を担う主権者でもある。よって、環境税に関して、市民一人ひとりが政府をチェックし、必要があれば意見を表明することが、大事ではないだろうか。


配布資料

環境税は誰が担うのか?-気候変動対策の『現場』から考える-


「私が考えるサステナブルな社会」

日本では、環境税には増税のイメージがあり、「社会のために、みんなで痛みに耐えましょう」という話になりがちですが、ヨーロッパには環境税を取る代わりに他の税を減税する例がほとんどです。世界経済も見据えた上で、社会全体が持続可能になるような税制のあり方を広い視野で考えていくべきでしょう。


「次世代へのメッセージ」

環境税に限らず、税金とは政府に対するファンド・レイジングです。公共政策の「プロ(現実にそうかどうかは別として)」に自分たちのお金を付託していると考えれば、そのお金が現場で効果的に使われているかどうかをきちんと見て、市民一人ひとりが政府に意見を表明することも重要だと考えます。


受講生の講義レポートから

「炭素税の3つの効果の中で、私はアナウンスメント効果にとても期待します。これからの環境対策は、意識化が重要な役割を担うと思います」

「大学で環境経済学を履修しているので、とても興味深かったです。環境政策と炭素税導入との関係に注目していきたいです」

「環境税=環境のために使われる税金、という意識がありましたが、ヨーロッパでは雇用創出や社会福祉に使われていることを初めて知りました」

「税金と聞くと負担増というイメージがあったのですが、税の導入でインセンティブが生まれるというのは新たな学びでした」


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